「ランニング効率を15%まで引き上げられる」

アッパーは履いているソックスが透けて見えるほど薄い。吸水性がないので、雨のレースでもシューズが重くならないという。他にも足の圧迫を防ぐため、シューレースは中心からずらした位置に配置。どんな天候、どんな路面でも対応できるように、トラクションパターン(アウトソールの補強部分)のデザインも一新された。

(写真=ナイキ提供)

「特に前足部のグリップ性を改善しました。キプチョゲはアグレッシブにトゥ(爪先)を使うので、その部分も補強しているんです。彼はトゥのプッシュアップがすごくパワフルなので、レース後のシューズは爪先部分がかなり擦り切れています」

爪先部分で強く地面を蹴ることができれば、キプチョゲのように速く走ることができるかもしれない。

またデザインにもこだわりと意味がある。たとえば、ミッドソールのサイドには溝が彫り込まれており、かかと部分は流線形になっている。これは風の抜け道となり、空気力学を活用しているのだ。ナイキのロゴマークであるスウッシュもサイドではなく、甲の上にかかるように変更。ランナーを正面から撮影しても、シューズのスウッシュがちゃんと写真に収まるようにフォトジェニックなデザインになっている。独自のグリーン色は、アスファルトの上でよく映えて、人間の目に最も見えるカラーを選んでいるのだ。

ズーム ヴェイパーフライ4%は当時ナイキで最も速いシューズとされていた「ズーム ストリーク6」よりランニング効率が平均4%高くなることがわかり、シューズに「4%」がついた。今回はあえて「ネクスト%」という数字のないネーミングにしているが、そこに大きな可能性が潜んでいる。

「ズーム ヴェイパーフライ4%と同じテストをしたんですけど、今回はエリートアスリートだけではなく、(テストする)ランナーの範囲を広くしました。その結果、4%以上の人も出てきたんです。範囲が広がったことで『ネクスト%』としました。ズーム ヴェイパーフライ4%はマラソンのゲームを変えましたが、われわれにゴールはありません。ランニング効率を15%まで引き上げられると思っているんです」

市民ランナーの上位勢はナイキの厚底に履き替えている

ワールドマラソンメジャーズ(17、18年)の表彰台占拠率はナイキの厚底シューズが約58%を占めている。しかし、他のメーカーもトップ選手と契約を結んでおり、メジャーレースの上位勢が「ナイキ一色」になるかどうかは未知数だ。とはいえ、ロンドンマラソンを現地で取材して、市民ランナーのナイキ厚底着用率が高くなっていることを実感した。

目視での感覚になるが、市民ランナーのトップクラスといえる2時間20~2時間40分台のナイキ厚底率は「7~8割」もあったのだ。2時間50分台以降から徐々に少なくなっていくものの、4時間台でも履いているのをよく見かけた。

ロンドン市内の直営ショップ「ナイキタウン」では4月25日から「ズームエックス ヴェイパーフライネクスト%」を限定販売(販売数は非公表)したが、3日後のロンドンマラソンですでに履いている市民ランナーが数十人もいた。

「ズーム ヴェイパーフライ4%はリードアスリートのために作ったシューズですが、結果的にさまざまなレベルのランナーに履いていただくことができました。すべてのアスリートに対応できるシューズだからこそ広まったのだと思います。従来は軽量でミッドソールがミニマルなものがレース用のシューズでした。でも、ズーム ヴェイパーフライ4%の出現で世界は変わりました。クッション性があるので、脚へのダメージは少ない。最新シューズはフォアフットだけでなく、ヒールストライカーもOK。これは、すべてのランナーがマラソンを楽しめるシューズなんです」