会社が安定雇用を約束できなくなったいま、社員の忠誠心を引き出すのは至難の業。しかも優秀な社員ほど、スキルアップして辞めていく。自分の「市場価値」にこだわる社員をコミットさせるにはどうするか。

雇用主と被雇用者の関係の質そのものが根本から変わってきている。

労働者は何十年も続けて同じ会社で働くだろうとは思っていないし、それを望んでさえいない。彼らの大半は組織に対する忠誠心という概念そのものに幻滅している。しかし同時に、引退するまでずっと、2、3年ごとに会社を替わり続けたいと心から望んでいるわけではない。

それに企業のほうも、労働者の多くを2、3年で入れ替えなくてはいけないとなったら、立ち行かなくなってしまう。

忠誠心に関して、雇用主と被雇用者の双方が納得するまったく新しい解決方法はあるのだろうか。取材に応じてくれた専門家たちによれば、答えは「イエス」だ。

忠誠心は、あるかないかの2つに1つととらえるべきものではない。たしかに、自分にできる最高の仕事をするためには、社員は会社と会社がめざすものに対する忠誠心を持っていなければならない、と専門家たちは言う。しかし、「社員は自分のキャリアを高めながら、同時に100パーセント会社に貢献し、見事なパフォーマンスを示すことができる」と、ノース・カロライナ州のコンサルティング会社、ザ・ハーマン・グループのジョイス・ジオイアは言う。とくに、自分のキャリアを高めるためのスキルが、会社が必要としているものである場合はそうだと彼は説明する。

また、社員が自分のキャリア向上に役立つ新しいスキルを習得するのを会社が手助けする場合、その会社は概して社員のコミットメントを引き出せるし、忠誠心を持つ新規社員を引き寄せることもできる。つまり、会社は社員が成長して別の仕事に――理想的には社内の別の仕事に――移るのを手助けすることによって、会社に対する忠誠心を高めることができるのだ。

しかし、人材を引き留められない場合でも、それは辞めていく社員たちに忠誠心がなかったということではない。実際、忠誠心についてのもう1つの間違った決めつけは、忠誠心は「永久に」続かなくてはいけない、というものだ。「私の学生の1人がそれをうまく表現した」と、ハーバード経営大学院のリンダ・ヒル教授は語る。「その学生はこう言った。『忠誠心は恋人との付き合いのようなものだ。付き合っている間は目の前のその人に忠実であることができるが、それは後に心変わりして別の人と付き合わない、ということではない』」。企業もまた、すべての社員を永久に引き留めておこうとすべきではない。「盲目的な忠誠心はいらない」と、ミネソタ州のガンツ・ワイリー・リサーチのエグゼクティブ・コンサルタント、スコット・ブルックスは言う。「最も望ましいのは、双方が得をするような忠誠心だ」。

フロリダ州の電力供給会社、チェルコ(CHELCO)の販売・管理担当副社長、レイ・グランサムも「できの悪い社員がずっといるより、超一流の社員が3年いてくれるほうがいい」と言う。