NHKまでが掲示板合格発表を取材するワケ

▼2月2日土曜14:00@桜蔭

12:00、JR水道橋駅から学校に通じる通称「桜蔭坂」の近くにあるカフェの窓際でしばらく待機する。後ろの席には、私と同じように女子学院からハシゴをしたと思われるスーツ姿の大手塾関係者2人組。

13:20、合格発表は14:00なので、まだだいぶ時間があるが、坂を登りはじめる親子がちらほら。午前に別の学校で試験があったようで、その後、親子連れが急増する。その頃から、坂の両側に大手塾関係者が並び、チラシ配りを始めた。

14:00、模造紙サイズの白い紙が1枚ずつ合格発表の掲示板にはられていく。「やったー!」という女の子の声。無言で立ち去る女の子。「うおー!」と低い声を発するお父さん。声を出さず破顔一笑、もしくはくちびる真一文字のお母さん……。

反応はぞれぞれだが、大騒ぎにはならない。やはり小さな歓喜と落胆が静かに同居している。ただ桜蔭は先ほどの女子学院と違い、発表後もざわざわとしている。見ればメディアの取材が多く、合格者の喜びの表情を撮ろうとカメラが並ぶ。民放のワイドショーだけでなく、NHKまでいる。

テレビカメラは、入学関係書類をもらった子供を待ち構え、「ヒーローインタビュー」をする。「今の気持ちは?」「毎日、何時間勉強した?」。多くの子供は小学4年からの3年間、勉強に打ち込んできた。その成果が出たのだ。取材に当惑しながらも、笑みがこぼれるのは無理もない。

「(お前は)これで胸はって、一生、生きていける!」

筆者もある合格者の女の子に話を聞いた。

「発表の瞬間が怖くて、お父さんに掲示板を見に行ってもらいました。お母さんと校門あたりで、まだかまだかと待っていると、メールで『あったよ』と連絡がありました。すごくうれしくて、涙が出ました」

別の父親は、隣にいる娘に「お前はよく頑張った、おめでとう」と声をかけ、頭をなでていた。そして、最後にこう言い放ったのだ。

「(お前は)これで胸はって、一生、生きていける!」

いやいや。「それは、お父さん、あなたでしょ!」と筆者は心の中でつっこんだ。娘を難関女子校に合格させたのは、俺。そんな本心が垣間みえる気がした。

掲示板前では、メディア以上に大手中学受験塾の腕章をつけたカメラマンが目立っていた。塾講師はスーツ姿だが、カメラマンの服装はラフ。おそらく映像制作会社のスタッフなのだろう。子供の表情を撮り逃がさんと追いかけまわしている。塾のPR動画に使用するのだろう。

ほかの大手塾関係者は合格掲示板をくまなくチェックする者もいた。その手元には「お茶の水校舎」「受験番号」などと記入されたリスト。どうやら所属する校舎別に生徒の合否チェックをしているようだ。

15:00、発表から1時間もたつのに合格した子がまだうろうろしている。ある大手塾に所属する合格者は、30人ほどが集まって記念撮影をしていた。撮影を終えると、大きな拍手で親と塾関係者が子供たちをたたえる。いささか派手な演出だが、塾としてはお約束なのだろう。

合格発表当日は、生徒や親だけではなく大手塾にとっても1年で最大のイベントといっていい。合格者と喜びを分かちあうという側面だけでなく、塾としては「新規の生徒獲得につながる映像素材を撮る」というイベントなのだろう。