これが東大ロボット(東ロボくん)です。言うまでもなく、ロボットの脳は遠隔のサーバー上で作動しています。東ロボくんは、17世紀の海上貿易に関する600語の小論文を執筆しました。ロボットは教科書とウィキペディアから文章を取り出し、それらを組み合わせて、何一つ理解することなく論文を書きます。ですが驚いたことに、この読解力のない機械は、大半の学生よりも優れた小論文を書き上げました。そして数学のテストでは、成績上位0.5%の中に入りました。

図は東ロボくんと同じ試験を受けた50万人の学生の成績分布グラフです。東ロボくんは上位20%以内に入っていて、日本の70%以上の大学に合格する能力を備えていますが、東大には受かりません。AIが将来ホワイトカラー労働者になる学生たちの大部分より上に位置していることにご注目ください。

問題なのは、AIが仕事を創り出しているかどうかや、私たちから仕事を奪うかどうかではありません。バランスと持続可能性が問題なのです。もし人々が仕事や家を失ったら、スマートスピーカーを利用することはできません。もし電子商取引のせいで地元の商店が潰れてしまったら、住所を持たない人々はどうやってオンラインで買い物をし、それを配達してもらえばいいのでしょう。できるはずがありません。

多くのテックジャイアンツがとても楽観的にCSR(企業の社会的責任)活動に取り組んでいます。しかし私たちはそれに満足してはいけません。

私たちが必要としているのは、デジタルエコシステムを健全で持続可能なものとして維持するために、富の再分配に変化をもたらすことです。

私はこうした企業の慈善事業に期待しているわけではありません。必要なのは規則の変更です。法人税を引き上げたり、あるいはロボットが生み出した利益に税を課したり、企業が法人税逃れできない仕組みをつくることで、財源をつくり、富の再分配が適正に行われるようになれば、私たちにとって有益なだけでなく、長い目で見ればテックジャイアンツにとっても利益をもたらすと、私は考えています。

新井紀子(あらい・のりこ)
国立情報学研究所教授
同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学大学院数学研究科単位取得退学。東京工業大学より博士を取得。専門は数理論理学。著書に『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』がある。
(構成=プレジデント編集部 撮影=尾関裕士)
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