揉め事もオープンにして、ロイヤルティを高める

漆さんはその後も、校舎の建て替えや中高一貫教育への転換、企業と協力しての総合学習の導入など改革を積み上げていきます。その成果もあり、89年からの7年間で偏差値は約20ポイント上がり、入学希望者は60倍になりました。

漆さんは学校説明会でもビジョンをストレートに語るそうです。いいことばかり言うのではなく、教育方針の厳しいところも包み隠さず説明する。とくに、「わが校は失敗と競争と揉め事とマルチタスク(複数並列作業)を大事にします」という話をすると、その場で席を立つ人もいるそうです。必然的に漆さんのビジョンに共感した親しか子どもを学校に入れないということになる。最初からロイヤルティが高いのです。結果、同校では生徒数約1300人の学校に280人ものPTA役員がいて、定員を超える人が毎年立候補する驚異的な状況になっています。

漆さんは言います。「決断をするときに大事なのは、判断軸を持っておくこと。私の判断軸は、『卒業生の母校を守る』ことと、『在校生を社会に有意な人に育てる』ことの2つしかない。決断するときは、この2つの軸を守って判断したと言えるのか、自分が死ぬときに恥ずかしくないかと考える。すると雑念がさっと消えて、進むべき道が見えてくるんです」と。まさにビジョンを大事にされてきたからこそ成功されたのであり、一般の経営者にも学ぶべきところは多いと言えるでしょう。

品川女子学院
●所在地:東京都品川区
●生徒数/教員数:1306名/108名
●校長:漆紫穂子(中央大学文学部卒、早稲田大学大学院国語国文学専攻科修了。他校での国語教師を経て、2006年6代目校長に就任)
●沿革:1925年、衆議院議員・漆昌巌の娘、漆雅子によって「荏原女子技芸伝習所」として設立。91年に校名を「品川女子学院」に変更し、中高一貫教育をスタートさせた。
入山章栄
早稲田大学ビジネススクール准教授
三菱総合研究所を経て、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。2008年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールの助教授を務め、13年より現職。専門は経営戦略論および国際経営論。近著に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』。
(構成=嶺 竜一 撮影=市来朋久)
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