「熟慮した失敗」で、センスは磨かれていく

このように緊急度だけでなく、将来も見据えて重要度を加味しながらバランスよく優先順位が付けられれば、段取り上手になること請け合いだ。ところが厄介なことに、仕事に取り掛かる前は、その仕事を優先すべきかどうかを100%見通すことは不可能。優先順位を付けて取り組んでみて、それが正しかったかどうかは結果が出た後にしか正確にはわからない。それでも段取り上手と言われる人はいる。

「これは確率論の問題です。答えがわからない初めての仕事に直面し、取り掛かる前に付けた優先順位が結果的に正しかったという割合が高い人は、仕事がデキる人だと言えます。センスとも言い換えることができ、経験により磨かれていく部分です」

経験の中でもとりわけ成長するのが失敗の経験だ。ただし同じ失敗でもよい失敗と悪い失敗があると言う。

「慣れた仕事であれば過去の経験から即断即決で決めていいのですが、初めての仕事は早とちりせず、熟慮してから取り掛かるべきです。熟慮せずに失敗しても、それはたまたまなので、経験として蓄積されません」

失敗したときに「なぜ自分は失敗したのだろう」と考え、「このポイントで判断ミスをしたのだ」と省みれば、次の成功につながっていく。もちろん成功すればそれは成果としてはよいが、成功したときは失敗したときほど深く考えないので、失敗したときのほうが成長するという。

「結局、脳は消去法で判断するのです。3つ選択肢があって正しいものを選べなくても、これはダメ、これもダメ、残ったのはこれといったように、正しい判断に導いていきます」

たくさん失敗することは消去すべき選択肢を増やしていることになり、残った選択肢を実行に移せば成功する確率が高くなるというわけだ。

いろんな選択肢を選び、失敗しながら消去法の対象をインプットしていくと学習効果が出て、優先順位を付けるのが上手くなっていく。

経験は自分のものでなくても構わない。他人の体験も大いに活かせるという。身近にいる段取りのいい人から学ぶことができるのだ。ただし漫然と相手を見ていてはいけない。

「段取りがいい人をつぶさに観察し、相手と自分で何が違うかとメタ認知する(客観的に自分を見る)ことが重要です。これを『差分検出』と言います」