周辺分野の読書で客観的に物事の本質を掴め

<strong>慶應義塾大学 大学院教授 高橋俊介</strong>●1954年、東京都生まれ。東京大学卒業。プリンストン大学大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアット等を経て、現職
慶應義塾大学 大学院教授 高橋俊介●1954年、東京都生まれ。東京大学卒業。プリンストン大学大学院修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアット等を経て、現職。

私は普段、自分の専門分野以外の本を、自らの領域の考え方に読み替えて読むよう心がけている。専門分野では、直接取材した一次情報こそが重要だと考えるため、本は最低限しか読まない。『なぜ、人間は蛇が嫌いか』では、心理学者が人間に備わっている「伝播」能力について考察している。これは、たとえば他人がヘビを怖がるのを見てヘビの危険性を学習する能力のこと。多くの動物に備わっていない能力である。この能力を活かせる環境が整っているかどうかは、会社組織の優劣を決めるうえでも重要な要素だろう。『50歳までに「生き生きした老い」を準備する』は、米国の医師が60年以上にわたり800人の被験者の生活習慣などを追跡調査し、幸福な老後とは何かを考察している。「幸福」という主観で語られがちなテーマであるにもかかわらず、圧倒的なデータの裏づけが強い説得力を持っており、その方法論が参考となる。

現状を正確に把握するには、正しい歴史認識も不可欠だ。『正座と日本人』にある、「日本人の大半は昔は正座をしていなかった」という事実や、『日本の歴史をよみなおす』に登場する中世の商工業者や芸能民を知ることは、日本の現状把握には欠かせない知識だ。

「日本民族は農耕民族だから集団行動が得意だ」などと怪しげな組織論を語る人は、読書によって客観的に物事を把握するトレーニングをするべきだろう。