外泊の制限はなし。自主性を重んじる

開設から5カ月ほど経った。驚いたのは、独身男性250名のうち、車を持っているのが9名だけだったことだ。またカーシェア用の車を5台置いてあり、1週末あたりの稼動は2~3台。昔に比べて車との距離が遠くなったことを感じた。また、スタディコーナーや共用スペースで、グループで勉強している寮生がいるのも、昔は見なかった光景で非常に新鮮である。

自主性が育っていることも感じている。大きな寮は、誰がどこに住んでいるかわからないというデメリットがある。当初、居室は匿名にして部屋番号のみ表示していたが、入社年次、部署、名前も表記するようになった。その情報を見た寮生が、「今度この人と話してみようか」という気になれば、ネットワークが広がっていく。そしてこれは寮生による自発的な提案だった。

寮というと会社が目を光らせ、管理しているイメージが強いかもしれない。しかし基本ルールは会社がつくるが、寮生の自主性は尊重している。寮生以外は入れてはいけないルールを設けていても、外泊に関して制限はない。そして門限もない。地域社会との共生のための清掃や、花見やバーベキュー大会といったイベントも、若手社員の自主性に任せている。会社が過度に関与せず、問題があったときだけ寮長に関与してもらうスタンスである。

日吉寮はまだ始まったばかりで、効果は長い目で見ていく必要を感じている。というのも自分の経験を振り返ると、どの職場の人ともどこかで接点があったり、それによって話が早く進んだりと、10年ぐらい経ってから、寮にいたメリットを改めて実感することが多いからだ。

雇用形態も時代によって変わってきたが、終身雇用を前提にしている日本企業は少なくない。そして長く働く会社であるほど、初期のネットワーク構築が大事なように思える。社員は出生地も卒業大学も違い、それぞれの価値観がある。それが一定期間一緒に過ごす中で、価値観が共有されていき、企業風土へと昇華されていく。「ひとつ屋根の下」で価値観が共有され、一体感が醸成された企業こそ、さらなる成長を遂げ、企業価値を向上させていけるのではないだろうか。

岩田憲司(いわた・けんじ)
伊藤忠商事 人事・総務部 総務室長
1996年、伊藤忠商事に入社。大阪人事部に配属。伊藤忠人事サービス(現・伊藤忠人事総務サービス)、厚生労働省への出向を経て、2001年、人事部人事企画室に配属。その後、業務部、シンガポール会社などを経て、17年4月より現職。
(構成=小林 力 撮影=研壁秀俊)
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