通貨切り下げ競争が引き起こす「近隣窮乏化」とは

このような経験を踏まえて、チェンマイ・イニシアチブ下の通貨スワップ取りきめのIMFリンクの削減が求められている。また、IMFリンクは、ASEAN+3財務大臣代理会合におけるサーベイランスを自前で十分にできないことから、IMFのサーベイランスに頼って、通貨危機管理を行おうとしていることを反映している。IMFリンクを削減して、チェンマイ・イニシアチブ下の通貨スワップ取りきめを実効的なものとするためには、サーベイランスを行う自前の機関がASE AN+3のなかに設立される必要がある。その必要性を受けて、AMRO(ASEAN+3 Macroeconomic Research Office)がシンガポールに設立されることがすでに決まっている。ASEAN+3は、ゆっくりとしたスピードではあるが、着実に地域通貨協力に向けて動きだしている。

しかしながら、ASEAN+3においては、為替相場の乱高下などの動きに対してサーベイランスを行うことはしておらず、サーベイランスの対象は、GDPやインフレ率などのマクロ経済変数のほか、金融部門の健全性などに限定されている。

ソウルで日韓新時代共同研究プロジェクトの最終会合が開催されていた同じときに韓国の慶州において20カ国(G20)財務大臣・中央銀行総裁会議が開催されていた。この会議における主要なアジェンダは、通貨切り下げ競争、あるいは通貨安競争をいかに回避するかということにあった。その声明において、「根底にある経済のファンダメンタルズを反映し、市場で決定される為替レートシステムに移行し、通貨の競争的な切り下げを回避する。準備通貨を持つ国々を含む先進国は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きを監視する」ことを明記している。