買い物の前提が「面倒なもの」ではダメ

――「マーケティングさえできればもっと伸びる」という業界は何でしょうか。

小売りと金融です。

いま、小売りはアマゾンに押されています。アマゾンが巨大物流会社として世界を席巻するのは彼らの自由です。問題は、日本の小売業がアマゾンに代表されるEC革命に対抗するビジネスモデルを持っていないこと。日本の小売業の多くが「小売りの本質」を忘れている。

小売りの本質は、買い物自体の価値を消費者に提供することです。でも日本の小売りがやっているのは、ナショナルブランドの商品をできるだけ安い価格で棚に並べること。店の棚という「土地」を人に貸しているに過ぎませんから、テナントで儲けている不動産業と同じです。

どの店も似たり寄ったりで、新しい発見も提案もないから、店に行ってもつまらない。そうなると、欲しいものが明確にわかっている消費者にとって、お店に行ってレジに並んで家まで商品を持って帰るのが面倒な作業でしかない。それならば、クリック1つで翌日や当日に品物が届くアマゾンのほうがいい。

買い物が「面倒なもの」という前提では、アマゾンに勝てない。アマゾンほど簡便性が高く、品揃えが多く、安くできる企業はないからです。唯一勝負できるのは、簡便性で勝るコンビニくらいです。アマゾンに対抗するには、ショッピング自体の価値を再定義するしかないんです。

買い物を「体験」に変える

――「ショッピング自体の価値を再定義する」とは?

買い物という行為自体を「コト化」することが大事なのです。買い物をできるだけ速く安くすませたいというニーズは時代の要求なので、アマゾンが隆盛する。「こだわらないもの」はアマゾンで済ませて、大事なものは、「アマゾンで済ませたらもったいない」と思わせなければ。今後は、「買い物という体験の興奮を盛り上げる」ためのビジネスモデルをどう作っていくか、ここの勝負に入っていくはずです。

何でもワンクリックで買える時代だからこそ、その対極に価値が生まれます。暗くなればなるほど小さな明かりは目立つ。デジタルアニメーションが流行るほどにスタジオジブリのアナログの良さが際立つように、世の中の主流の反対側にあるものは輝きを取り戻すことができると私は思っています。