天才脳科学者の茂木健一郎氏と、人気ドクター桑原斉氏。高校と大学の同窓でもある2人が、熱く語り尽くす。

「小学校入学初日から椅子に座っていられなかった」

【茂木】昨今メディアでも「発達障害」の言葉をよく見かけるようになりました。今日は、能力の凹凸やこだわりの強さなどの発達障害ならではの特性が、人間の創造性に影響を与えることはあるのか、社会とどう折り合いをつけるのかといったことを解き明かしたい。

(左)茂木健一郎氏(右)桑原 斉氏

【桑原】壮大なテーマですね。エピソードを中心にお話ししますが、よろしくお願いします。

【茂木】最初からぶちまけてしまいますが、僕は「発達障害」という言葉自体に違和感を抱いている人間です。もちろん研究の重要性は理解していますし、実際に困っている人を診察されている先生のような方は非常に尊敬しています。ただ、診断される側のマインドが問題で、例えばわが子に診断が下ったとき、必要以上にパニックになり、将来を悲観してしまう親御さんも多いですよね。まるで烙印を押されたかのように落ち込む人がいて、でもそもそも「自閉スペクトラム症(ASD)」という言葉からもわかるように、本来人間の特性は「スペクトラム(連続体)」であり、「正常」と「障害」の明確な線引きなどできないはずですよね。

【桑原】おっしゃることは、よくわかります。僕のところには、幼児から80代の方まで多様な方が診療に来られますが、皆さん非常に深刻な面持ちですよね。診断を受けてショックを受ける方や怒りだす方もいます。ただ、なかには診断を受けて「ほっとした」という方が多いのも事実です。特性を知ることで、苦手なこと、得意なことを知り、日常生活や対人関係を工夫することができますから。

【茂木】実はね、僕は小学校入学初日から椅子にきちんと座っていることができず、先生から「退屈しちゃったかな?」と尋ねられて赤面した人間なんです。2年生の頃には、よく宿題を忘れて教室の後ろで座らされていましたが、同様によく叱られる女の子と2人、今度は教室の後ろで粘土消しゴムとかで遊び始めてしまうのでまた怒られるという悪循環で。ところがその女の子、2学期からは特別支援学級に行ってしまったんですよ。つまり、僕もかなりグレーだったということです。いまだに僕は講演会や会議でじっとしていることができませんし、先日は児童精神科医の方に「子どもの頃、発達障害と診断されませんでしたか」と尋ねられました。おそらく今の時代に生まれていたら、診断名が出て就学前相談が必要だったでしょうね。

【桑原】なるほど、なかなかですね。ただ茂木さんはそれを上回る頭の良さがあるから、そこでカバーできてきたのではありませんか。