「わからんように、お洒落してはります」

花柳界の女性は、中学卒業後から舞妓として置屋で修業し、20歳過ぎで芸妓に衿替(えりが)えすると一人前と見なされる。そんな過程を経てきた芸妓の1人、まめ鶴さんは、祇園甲部芸妓組合の組合長でもある。長身の立ち姿が美しい。

――お茶屋さんには、どういう方が遊びに来られるのですか。

まめ鶴さん●京都・祇園甲部芸妓。13歳で舞妓、20歳で芸妓に。22歳で独立。31歳のとき、バー「まめ鶴」を開店。2014年より祇園甲部芸妓組合組合長。年に1度、祇園甲部の芸舞妓がこぞって舞台に立つ「都をどり」で主役を務める。

そうどすね、お座敷に来られる方は、銀行さんとか、京都の大きな企業のトップの方が多いですね。それで、会社でも銀行さんでも代々お茶屋さんの引き継ぎがあって、次の社長さんに紹介していくんです。ご紹介があって、会社とお茶屋さんがずっとお付き合いさせてもらうのが、この世界のルールです。自分の代で「嫌やから他所へ行きます」というのはあかんことなんです。そこはみなさん、守ってくれてはります。

もちろんお客様として呼ばれる場合は他所へ行かれるのも大丈夫ですけど、ご自分のお手元での接待なら、昔からのお茶屋さんを使うのが基本ルールです。「あの会社は、あのお茶屋さん」という感じで決まってるんです。

 

――新しい客として行く場合は、紹介でなければならないのですよね。

そうどすね、ご接待で何度か連れてきてもらって、紹介という形になります。何よりも信用が大事なんで紹介以外は受け付けません。みなさんご存じの「一見さんお断り」も信用を守るからこそです。日本の方でも外国の方でも、どんな偉い方でも一見さんはお断りです。そやから、紹介する側も自然と慎重になります。

もし新しいお客さんのBさんが粗相をすれば、紹介したAさんの責任になるわけです。そういう意味で、紹介するのも難しい。そやけど時代も変わってきてますし、あんまり古いこと、難しいことばかりでは、お客さんも来てくれへんしね。その辺が難しい時代やなと思います。

――やはり敷居が高いイメージがあります。身なりや立ち居振る舞いも、かなり気を遣わねばならないのですか。

その辺に関しては、お茶屋さんは「こうしなあかん」というのは一切ないんですよ。服装にしても、接待の場合と、内々で気楽に見えるときと、いろんなお座敷があるので決まりはないんです。基本的にはスーツが多いですけど、ノーネクタイで来られることもあります。ただ、みなさんシャツもスーツも、ぴかぴかじゃなくても、わからんようにお洒落してはります。清潔感にも気をつけてはります。身だしなみは足元も大事です。くたびれた靴はちょっとあきませんけど、座敷に上がられますから、靴下も気をつけてはります。仕事の続きで来られる方も多いので、靴下をはき替える方もいますね。