テスラのイーロン・マスクCEOは、常識破りな「クールな電気自動車」を打ち出し、業界の秩序をひっくり返してきました。しかし発表後1カ月で40万台を受注した「モデル3」の量産に苦戦。経営破綻のリスクを指摘されています。万一の事態のとき、テスラはどうなるのか。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「いざとなったらグーグルがテスラを買収するだろう。電動化の流れは止まらない」といいます――。(第7回)

※本稿は、田中道昭『2022年の次世代自動車産業 異業種戦争の攻防と日本の活路』(PHPビジネス新書)の第2章 「EVの先駆者・テスラとイーロン・マスクの『大構想』」(全34ページ)(全53ページ)の一部を再編集したものです。

テスラの共同設立者およびCEOのイーロン・マスク氏(写真=AFP/時事通信フォト)

「モデル3」量産化や資金繰りに苦闘中のテスラ

創業からわずか15年で、EVの寵児となったテスラ。フォーブス誌の「世界で最も革新的な企業2016」の1位に選ばれるほどのイノベイターでもあります。

その価値を、従来の指標から推し量ることは案外簡単ではないかもしれません。売上規模を見れば、フォードが1567億ドル、GMが1455億ドルに対し、テスラは117億ドルにとどまっています(いずれも2017年12月末決算での数値)。

しかし、時価総額に注目すると印象は一変します。GM527億ドル、フォード438億ドルに対し、2010年に上場を果たしたばかりのテスラは505億ドル(いずれも2018年4月6日時点)。また、簿記上の自己資産に対する時価総額の倍率を示すPBRは、テスラ11.9倍、GM1.5倍、フォード1.2倍です。

単純に、全世界を走る車両に占めるシェアのみを取り上げれば、テスラのEV車の数は、業界全体に影響を与えるようなものではないと言ってもいいでしょう。しかしテスラは単に売上や販売台数だけでは語ることのできない部分によって、業界の秩序をひっくり返してみせたのです。この事実から、テスラという会社の革新性、そして市場からの期待感の大きさがおわかりいただけるのではないでしょうか。

ボトルネックは電池パックと車体の組み立て速度

もっとも、足元ではテスラは明白に苦闘しています。テスラ初の大衆車となった「モデル3」(3万5000ドル~)の量産が軌道に乗らず、先行投資ばかりが膨らんでいるのです。そのほかにも、モデルSのリコール、自動運転での事故など、2018年に入ってからはネガティブな出来事が相次いでいます。

モデル3については、予約開始から1カ月で40万台ものオーダーを獲得したものの、いざ生産を始めると2017年7~9月期の納車台数は260台、10~12月は1500台にとどまりました。これを受けて同社は、「17年末には1週間あたりの生産目標を5000台とする」との目標を18年3月末に先送りし、さらに18年6月末へ先送りしました。

ボトルネックとなっているのは、電池パックと車体の組み立て速度です。当初、組み立てはロボットによる完全自動化ラインで進められる予定でしたが、委託業者がテスラの要求に応えられず、テスラ自らが手作業による組み立てを行うことに。ガソリン車に比べてはるかに部品点数が少ないことで知られるEVとはいえ、これでは生産スピードが上がりません。