平昌冬季五輪で、韓国は北朝鮮代表団を破格の待遇でもてなした。なぜ韓国は北朝鮮に甘いのか。拓殖大学教授の呉善花氏は、「文在寅大統領は、『親北史観』への教科書の書き替えをさらに推し進めるなど、韓国を北朝鮮に近い体制へ変えようとしている。その狙いは南北の現体制と核を温存した『2政府連邦制国家』をつくることだ」と指摘する――。

※本稿は、呉善花『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

南北がともに選んだ「融和路線」への転換

2018年1月1日、北朝鮮の金正恩労働党委員長は年頭の辞で、「国家核戦力の完成」「核弾頭と弾道ミサイルの大量生産・実戦配備」を主張する一方、平昌冬季五輪開催を祝福するとともに「凍結状態にある南北関係改善」の意志を示すことで、明白に「南北融和路線」への転換を表明しました。

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2017年末には、北朝鮮のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射への動きも伝えられ、アメリカによる北朝鮮ミサイル基地へのピンポイント爆撃の情報まで飛び交い、「もはや米朝戦争は避けられないのでは」との観測が日増しに強くなるばかりでしたが、いったいなぜ北朝鮮は「豹変」したのでしょうか。

北朝鮮は時をおかず、1月3日に韓国との直通連絡チャンネル復活、韓国の提案で1月9日に南北高官級会談開催、そして平昌冬季五輪への参加を表明します。韓国政府は北朝鮮平昌冬季五輪代表団を、まさに至れり尽くせりでもてなしました。

・政府がアイスホッケー女子南北合同チーム「コリア」編成で北朝鮮と政治決着。
・政府のはからいで、金正恩の元恋人ともいわれる玄松月率いる北朝鮮の芸術団が、韓国各地で「冬季五輪祝賀公演」を開催。
・北朝鮮の平昌冬季五輪代表団約490人の滞在費用である28億6000万ウォン(約2億8400万円)を、政府の「南北協力基金」から支出。
・金正恩の妹である金与正(党中央委員会第1副部長)ら北朝鮮高官代表団(22人)の訪韓費用を、政府の「南北会談関連予算」から別途支出。
・政府および文在寅大統領が、金与正を国賓待遇で接待(金与正に食事接待4回、ペンス米副大統領1回、安倍首相0回)、高官代表団に夕食会などを複数回開催。
・金与正が金正恩の特使として文在寅大統領に北朝鮮訪問を要請、文在寅が「条件を整えて実現させよう」と回答。
・政府が北朝鮮による金英哲労働党副委員長の閉会式への派遣を了承。金英哲は、2010年3月の韓国哨戒艦「天安」爆沈と同年11月の韓国延坪島砲撃を主導し、2015年8月に非武装中立地帯(DMZ)に仕掛けられた地雷の爆発で韓国軍兵士2人が重傷を負う事件を主導した人物と見られ、米韓はともに制裁対象としている。