韓国は北朝鮮の「ほほ笑み外交」にすっかり取り込まれている、韓国はなぜこれほど北朝鮮に甘いのか――。そうした声があがるのも当然でしょう。しかし、そもそも韓国では2000年の南北首脳会談以後、急速に国民の「親北朝鮮化」が進んでおり、現在の韓国大統領である文在寅は、それを先頭に立って推進してきたリーダーです。つまり、韓国は何ら北朝鮮に取り込まれたわけではなく、自らの積極的な振る舞いとしての「好待遇」を展開しただけです。

統一朝鮮実現へ向けた「南北連合国家」構想

呉 善花(著)『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか 核ミサイル危機から南北連合国家へのシナリオ』(KADOKAWA)

文在寅大統領は、北朝鮮が韓国を核攻撃するとは考えていません。「北の核はアメリカからの防衛のための核であり、攻撃のための核ではない、平和のための核だ」(盧武鉉元大統領の発言)というのが、盧武鉉の最側近だった文在寅をはじめとする韓国左派系勢力が信じるところでしょう。ですから北朝鮮が「国家核戦力の完成」を表明した段階で南北融和姿勢へ転換するのは、文在寅には当初から「想定内」のことだったのです。

北朝鮮の路線転換とそれを受け入れた韓国が、ともにその先に描いているのが、統一朝鮮実現へ向けた「南北連合国家」(2政府連邦制国家)の形成です。「北朝鮮の国家核戦力の完成」が南北統一への道を開き、しかもそこでは北の独裁体制と核が温存されたままという、まことに理不尽な歴史が始まろうとしているのです。

その背景には何があり、これから何が起きようとしているのか? 日米中ロなど関係諸国は、そこにどうかかわっていくのか? 拙著『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか』(KADOKAWA)では、関係諸国の東アジア戦略とパワー関係を読み解きながら、現在の「韓国と北朝鮮の狙い」を明らかにしています。

南北首脳会談で核問題が話し合われたことはない

金正恩が文在寅の訪朝を要請したことで、南北首脳会談が現実味を帯びてきました。実現するとしたら、南北間でどのような話し合いがもたれるのでしょうか。文在寅は果たして、北朝鮮に核放棄を迫るでしょうか。

これまでに南北首脳会談は2回行われています。1回目は2000年6月15日(金大中と金正日)。この会談では、北核問題に触れることなく、「南と北は国の統一問題を、その主人であるわが民族同士で互いに力を合わせ、自主的に解決していくことにした」「南と北は国の統一のため、南側の連合制案と北側のゆるやかな段階での連邦制案が、互いに共通性があると認め、今後、この方向で統一を志向していくことにした」と、南北統一問題に終始しました。

ところが、この2年前の1998年5月30日、北朝鮮は自国製のプルトニウムを用いた代理核実験をパキスタンに挙行させたとされ、8月31日には初の準ICBM(テポドン1号)を、日本上空を通過する形で太平洋に向け発射しています。