冒頭から恐縮だが、あなたは昨年、所得税をいくら納めただろうか?

即答できる方は少ないだろう。とくに確定申告の必要がない会社員の方は、納税義務を立派に果たしていながら、税に対する意識が希薄になりがちである。

会社員に対する源泉徴収の仕組み

会社員に対する源泉徴収の仕組み

会社員の場合、給料やボーナスから所得税が天引きされている。これを「源泉徴収税」という。税額は給与やボーナスから給与所得控除を差し引いて給与所得額を計算し、扶養者控除などを考慮したうえで、一定の税率をかけて計算される。

しかし実際には、生命保険料控除、損害保険料控除、社会保険料控除など、ほかにも給与から控除できるものがある。年の途中で結婚したり、子どもができた場合などは、その時点から配偶者控除や扶養者控除も受けられる。会社が天引きする税額には、これらの控除が反映されていないため、取られすぎていた分が還付される。これが「年末調整」だ。年末調整での還付金を密かな楽しみにしている人もいるようだが、取られすぎた分が戻ってくるのにすぎない。

年の初めに正確な税額を算出するのが不可能であるにもかかわらず、給与などから天引きするのは、ズバリ、「徴収漏れすることなく、確実に税金を納めてもらうため」である。源泉徴収をすることなく、年に一度、「納めよ」というのでは、「税金の無駄遣いが多いから、納めたくない」という人も出てくるだろう。そんなことが起きないよう、給与から天引きされる仕組みができているのだ。

一緒に働いている税理士によると、世界でも納税を確実にするために源泉徴収を行っている国は少なくないそうだ。しかし、源泉徴収と年末調整とをセットで行っている国は主要国では日本だけだという。他国では、源泉徴収によって納税し、調整すべきものがあれば各自が申告を行うことで還付を受ける。

納税者の立場からいえば、日本の制度は手間要らずというメリットがある。しかし問題視したいのは、「自ら手間をかけない分、税金に対して強く意識する機会を持てない」という弊害である。確定申告を行えば、「こんなに納めているのか」といった感覚が持てるが、天引きでは税について強く意識することがないまま、納税義務を果たしていくことになる。うがった見方をすれば、源泉徴収と年末調整は国民の納税意識を希薄にするシステムでもあるのだ。