共和党と民主党の違いとは

だが、理性に対する直観の優位を実証する研究は、現代であれば珍しくない。ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか』が面白いのは、この直観モデルにもとづいて、アメリカの共和党と民主党の違いを説明するくだりだ。

ハイトによれば、私たちの道徳的判断も、理性ではなく直観が支配している。

<道徳的な判断は、危害、権利、正義などに対する関心の度合いを測定するなどといった、純粋に理性的な働きではない。それは、動物が草原を移動し、さまざまな事象に引き寄せられたり、それらから遠ざかったりする際に下す判断に似た、突発的で無意識的なプロセスである。つまり道徳的な判断のほとんどは、<象>が下すのだ>

政治家のスピーチや政党の訴えに対する判断にも同じことがいえる。簡単な話だ。ある政治家が、いくら精緻な論理で訴えようとも、学術論文を朗読するようなスピーチだったら、聴衆の共感を得ることは難しいだろう。それよりも、印象的なフレーズをちりばめて、直観や感情に訴えかけるほうが、つまり<乗り手>ではなく<象>に語りかけるほうが、スピーチとしては効果的だ。

重要なのはここからだ。ハイトは、リベラルな民主党よりも保守主義的な共和党のほうが「直接、<象>に訴えかける術を心得ている」という。なぜか。共和党のほうが、人間が持つすべての道徳スイッチに刺激を与えようとしているからだ。

直感に影響する6つの「基盤」

ハイトによると、直観(=象)には、進化的に獲得した6つの道徳的な「基盤」がある。簡単に要約しておこう。

・<ケア/危害>基盤……残虐行為を非難し、他者の苦痛をケアしたい
・<公正/欺瞞>基盤……ペテン師を罰し、働きや貢献に応じて報われるべきだ
・<自由/抑圧>基盤……互いに結束して、いばり屋や暴君を打ち倒したい
・<忠誠/背信>基盤……チームの結束力を高めるために、裏切り者は罰しなければならない
・<権威/転覆>基盤……階級や地位に対して、人々が分相応に振る舞っているかどうか
・<神聖/堕落>基盤……非合理的で神聖な価値を持つ何かを大切にしなければならない

上記のなかで、リベラル(民主党)は、ケアや公正、自由に重きを置くが、保守(共和党)は、6つの基本的な道徳基盤すべてに訴えかけている、というのがハイトの見立てだ。とりわけ「<忠誠>基盤(とくに愛国主義や英雄主義)と<権威>基盤(両親、教師、年長者、警察、そして伝統の尊重など)へのアピールに関しては、ニクソン以来ほぼ共和党の専売特許だった」と解説している。