人間は同調圧力に屈しやすい。「同じ長さの線を選ぶ」という簡単な問題でも、サクラ役がまちがった線を選ぶと、被験者も高い確率で同調してしまうという。しかしサクラ役に一人でも正解を選ぶ人がいれば誤答率は劇的に下がる。「理性を使う勇気」があれば、同調圧力は弱められるのだ――。

理性はゆっくりとしか働かない

この連載では、私たちはどのようにして「認知バイアス」のわなを克服できるかということを考えてきた。認知バイアスの多くは、直感的な判断や思考が大きく関わっている。私たちの直感は、さまざまな事象をパターンとして捉えるため、パターンからはみ出る例外的な要素を無視する傾向が強い。そのため、直感ばかりに頼ると、自分の思い込みや偏見はますます強化されてしまうのだ。

そのストッパー役となるのが、理性的な思考だ。スピーディーな判断を得意とする直感は、「もしかしたら、自分が間違っているのでは?」と立ち止まって考えるのが苦手だ。そりゃそうだろう。エサを目の前にした動物は「これは食べられるかどうか?」などと考えたりはしない。自分の非や過ちを認めるには、理性的な思考を働かせることが必要なのだ。

ところが困ったことに、人間の理性的な思考は、直感に比べてゆっくりとしか働かない。直感的な思考を「オートモード」、理性的な思考を「マニュアルモード」と呼ぶ論者もいるように、理性を働かせるには手間がかかる。そのため個人の独力では、認知バイアスの克服にも限界がある。

直感的判断の頑強さを知るために、次のようなゲームを考えてもらいたい。出題側は、3つの自然数を並べる規則を考えておき、回答者がその規則を推理するというものだ。