それはコミュニケーションを活発にすることで「自ら考え、自ら行動する」ことを習慣化することに尽きるのではないか。

筆者は以前に住んでいた京都大学の吉田寮は、その意味で何らかの答えを持っているような気がしている。吉田寮は、「自治寮」として学生が自ら管理運営する寮で、ルールというルールもほとんどなく、寮生は自由気ままに暮らしている。しかし、ルールがないというのは恐ろしいことで、問題が発生すると、その都度、「ああでもない、こうでもない」とゼロから話し合いをしなくてはならない面倒臭さがある。誰かが「講義が始まるから」と起こしてくれることもない。

そんな自由奔放な吉田寮生と、先に紹介したプレジデントの「日米欧300人のグローバルエリート」の時間の使い方とを比較するとどうなるのだろうか(誌面では多くの比較調査をしているが、本稿では2つの項目に絞った)。

▼制限時間を設けて仕事をするか

この問いに対し、72%のグローバルエリートがYESと回答している(日本のサラリーマンはわずか33%)。対する吉田寮はどうだろうか。20年ほど前に吉田寮にいたあるOBはこう語る。「学生の住む吉田寮に『仕事』という概念はないので、比較は難しい。ただ、会議という意味では無制限でしたね。朝10時に始まった会議が、翌朝の7時まで続いたことがありました。お腹も空くし、会議に疲れてかなりの時間寝てしまったのですが、起きても延々と議論を続けている。途中でお酒も入った人が会議に参加して、議論が大混乱して、それを収拾するためにまた一から議論をはじめてとやっていたら、21時間かかりました。いい思い出ですね」

▼仕事のやりとりによく使うツールは?

この問いに対して、グローバルエリートは「メール54%、電話22%、チャットツール19%」と回答。対する日本のサラリーマン「メール54%、電話40%、チャットツール5%」だった。「吉田寮生の会話ツール」は「酒だ」と断言するのは、吉田寮の寮委員長まで務めた国際ジャーナリストT氏だ。

写真=iStock.com/kiddy0265

「ノーベル賞を受賞した赤崎勇さんは、吉田寮時代を振り返って『勉強の役には特にプラスの面はなかった』と言いつつも、生涯の『心友』を得たとおっしゃっています。私も寮生たちと浴びるように酒を飲み、毎晩のように騒いでいました。今でも取材先が吉田寮出身とわかるだけで、妙な親近感を覚えてしまいます。衆議院議員、都議会議員、プロニート、エリート商社マン、社会活動家と活躍の場はさまざまです。昨年のクリスマス、吉田寮出身のマック赤坂さんと赤坂のサイゼリヤで飲もうと盛り上がったのです。ただし、赤坂にはサイゼリヤが2軒あり、私たちは別々のサイゼリヤで盛り上がってしまいました。少し歩けば、マックさんのいるサイゼリヤに行けたのですが、そこへ行く手間すら面倒臭がってお互い酒に溺れるというのも吉田寮生ならではと思いましたね」

プレジデント編集部に籍を置き、社会で活躍している人の共通項を探ったときに、それは「自ら考え、自ら行動する」ということが実践できていることではないかと、私は感じる。上からの業務をただただこなすような悪しき官僚主義を脱するには、人生のどこかの時点であらゆるバカなことを議論しあえる自由な空間が必要なのではないか。

今、100年超の歴史を持つ吉田寮が取り壊されそうになっている。

京都大学は2018年9月末までに旧棟と新棟から退去するよう寮生に通知した。旧棟は老朽化して安全が確保できないことが理由で、新棟はだれが居住しているのか把握できないため、いったん退去してもらうという。

確かに、ノーベル賞の赤崎さんが振り返るように、吉田寮は、勉学にとって、一流企業に就職するためには何の役にも立たない。しかし、大学側が自治寮を潰すことで管理を強化し、学生の人間力を弱くし、ひいては社会を弱体化させてしまうのではないかと危惧している。

本誌特集においても、グローバルエリートの働き方が私たちに大きなヒントを与えてくれるのは事実だが、100%真似をすればいいというのではなく、自らの組織の「働き方文化」に即した形で、「いいとこ取り」をして頂ければ幸いだ。