誰もが経験するのが遺産相続。しかし、身近に迫るまで考えまいとしているからか、勘違いをしている方が多いのも事実である。

たとえば「相続問題とは相続税問題だ」というもの。バブル期にはよく、都心に住んでいる家族が相続税支払いのために家の売却・転居を余儀なくされた、などというケースが報道された。そんな話が耳に残っているためか、相続税の節税対策を求めて私のところへ相談にやってくる方もいる。だが、実際には相続税を負担しなければならない高額相続のケースは5%程度。

そんなことは承知しているよ、という人は、逆に「うちには財産なんてないから相続問題もありえない」と安心しきっている。実は、これも誤解である。財産の多寡にかかわらず、ルールにのっとって配偶者や子どもなどの相続人が故人の財産を分割して引き継ぐのが相続だ。そこには「分割」という難問が待ち受けている。

資産がすべて預貯金だったら簡単かもしれないが、現実には不動産や証券類などに分散している。仮に2人で均等に分けるとしても、誰がどの財産を取るのかで争いが生じることが少なくない。

相続の権利を持つ人とその順位、割合は民法に定められている。相続権があるのは、原則として配偶者および血のつながりがある家族である。

だが、遺言に書き残せば他人に財産を残すことができるし、養子縁組によって、実子と同様の相続権を持たせることができる。争いのタネはいろいろなところに埋まっているのだ。

もっとも、ここまでなら「取り分をどうするか」の問題が生じるだけだ。恐ろしいのは、プラスの遺産を相続したつもりだったのに、多額の負債を背負わせられる場合があることだ。

遺産の中身を精査して資産よりも負債が多いときには、相続自体を放棄することができる。ここまでは理解している人が多いだろう。しかし、故人が他人の借金などに際して連帯保証人になっていたらどうだろうか。これも実は相続されるのである。

連帯保証の契約書は手元に残っていないことが多い。だから気づかずに遺産を相続してしまい、あるとき急に多額の金を支払うよう求められるおそれもある。連帯保証は、発見しづらい時限爆弾だと考えればいい。