好きな科目をとるな、雑多な知識を蓄えよ

もちろん発想の豊かな人は、それほど追い詰められなくても2番目の概念を思い浮かべることができる。だが、日本人は総じてこれが苦手なのではないかと私は思う

(AFLO=写真)

2番目の概念、発想、切り口がなかなか浮かばないのは、1番目だけに安住して思考停止してしまうクセがあるからだ。それは歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド(1951~)のいう家族類型の影響があるのではないか。

トッドによれば、日本人の家族類型は「直系家族」だ。結婚した子どもの一人を相続人とし(多くは長男)、相続人と両親が同居する家族類型の思考・行動様式をとる。直系家族では長男など相続人に対して教育熱心な半面、主体的にクリエーティブな第2、第3の概念を生み出す環境にはなりにくい。

もっとも、同じ日本でも西南日本の太平洋岸地域には、直系家族とは異なる家族類型の「起源的核家族」が残っている。起源的核家族はタテ型の権威が弱く、成員はそれぞれ個人主義的な行動をとる。西南日本出身の起業家に活きのいいタイプが多いのはそのせいだろう。

ただ、起源的核家族は自由でクリエーティブな特質がある半面、教育に無関心という欠点がある。第2の概念どころか1番目さえもつかめないまま、低学歴・低収入の悪いスパイラルに入り込みやすい。必ずしも自由だからいい、というわけではないのである。

他方、教育熱心な直系家族型の文化で育った人は、専門一本槍になりがちだから、雑学を蓄え1番目の概念に疑問を持つ訓練が必要だろう。1つの専門知識に偏らず、最初はむやみに雑多な知識を蓄積することが重要だ。今日、日本人のノーベル賞受賞者の多くが、教養主義教育が盛んだった旧制高校出身者で占められている事実は興味深い。

そのため私は、大学の新入生に対して「好きな科目はとらないほうがいい」とアドバイスするようにしている。好きなことはいつでも学べる。だから、大学の講義でなければ接することがないような、自分の興味からは遠い分野を覗いてみろということなのだ。

人は追い詰められてこそ大きな力を発揮する。だが、そのときに2番目の概念、発想、切り口のヒントとなる雑多な知識、教養のプールがなければ、結局はたいした結果を導くことができない。したがって、まずは多様な知識を蓄えることが大切なのである。

▼“怠け者”の人類が 実力を発揮するには?
●能力「倍」の法則
(1)人類は基本的に怠け者であると知ること
(2)考えを深めるには1番目の概念に加え2番目の切り口が必要
(3)2番目の概念、発想、切り口は無意識下にある
(4)納期、締め切りは2番目を呼び出すカギ
(5)専門バカにならず雑学を蓄えるべし
(6)ストレスがかかるときこそ「いい仕事」ができる!
(構成=井手ゆきえ 撮影=永井 浩 写真=AFLO)
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