目の前にある食べ物や飲み物は、はたして体にいいのか、悪いのか。ボストン在住の医師・大西睦子先生がハーバード大学での研究や欧米の最新論文などの根拠に基づき“食の神話”を大検証します。

「調理法」が違うだけで老化に差が出るのか?

加熱調理は食中毒防止や、食品の栄養素を消化しやすくするのに有効です。短所は、栄養素が失われたり、望ましくない化合物が形成されること。その化合物の1つが「終末糖化産物(AGEs)」です。

AGEsは、老化の原因になります。具体的には、酸化ストレスや炎症を増加させ、がんのリスクとなること、糖尿病や心血管疾患などの慢性疾患のリスクとなることが報告されています。また、アルツハイマー病の重要な危険因子でもあるのです。

パンをトーストしたり、肉や魚を焼いたり、ジャガイモを揚げたりすると、褐色でいい香りのするおいしい食べ物に変わりますよね。AGEsは、このときに作り出されます。

2010年、マウントサイナイ医科大学の研究者らの報告によると、調理温度が高いほどAGEsの含有量が多くなります。牛肉100gの場合、AGEsの量は、生が707kU(キロユニット)、煮た場合は2657kU、4分間グリルしたステーキは7416kU、フライパンでオリーブ油を使用して焼いた場合は1万58kU。ちなみに、ベーコン100gを油なしで5分炒めると、9万1577kUです。

日本人の1日あたり平均AGEs摂取量は、1961年には3730kUでした。それが2005年には1万1830kUに。肉と植物油の摂取が増加したことが原因です。ともあれ、現在の平均的なAGEs摂取量と照らし合わせ、著しく高いか低いかが、食品選びや調理法を考えるうえでの1つの目安となりそうです。

AGEs摂取量を食品別に見ると肉が最も高く、植物油、チーズ、魚と続きます。低いのは穀物、卵、果物、豆類、ナッツ、芋類、野菜など。また調理中のAGEsの生成は湿式加熱(ゆでる、煮る、蒸す)、短時間加熱、低温加熱、レモン汁や酢などの使用で抑制されます。

動物実験では、通常の50%にAGEs摂取量を減らすと、さまざまな疾患を引き起こす酸化ストレスが低下し、さらに加齢に伴うインスリン感受性および腎機能の低下が減り、寿命も長くなりました。調理法を工夫するだけでも、老化防止の効果が期待できるかもしれません。

 
大西睦子
内科医師・医学博士。東京女子医科大卒業。国立がんセンター、東京大学を経て、2007年から13年まで、米国ハーバード大学リサーチフェローとして、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。著書に『健康でいたければ「それ」は食べるな』『カロリーゼロにだまされるな』など。
(構成=小澤啓司)
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