目の前にある食べ物や飲み物は、はたして体にいいのか、悪いのか。ボストン在住の医師・大西睦子先生がハーバード大学での研究や欧米の最新論文などの根拠に基づき“食の神話”を大検証します。

米国では長きにわたり、バターなどの脂質の健康的な摂取方法に関して「脂質闘争」と呼ばれる議論が続いています。まずは、脂質を大きく3つに分類してみましょう。

「飽和脂肪酸」は、バターやラードなど肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれます。「不飽和脂肪酸」はオリーブ油に多く含まれる一価不飽和脂肪酸と、魚の油やなたね油、えごま油、大豆油、コーン油などに多く含まれる多価不飽和脂肪酸があります。「トランス脂肪酸」は、マーガリン、ファストフード、インスタント食品などに含まれています。

脂質が米国人の健康の敵となったのは1961年。ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士が雑誌『TIME』で、「飽和脂肪酸を多く摂取する国で、心疾患に苦しむ人が多い」と結論づけたのです。

バターに代わるヘルシーな脂質として賞賛されたのは、トランス脂肪酸を多く含むマーガリンやショートニングでした。植物性の油を元にしている点が受け入れられた理由です。

ところが90年代に入ると、科学者たちは次々と不健康な油だと報告し始めます。2006年、米国では加工食品の栄養成分表示に、飽和脂肪酸とコレステロールに加えトランス脂肪酸量の表示が義務づけられました。そしてついに、米食品医薬品局(FDA)は、トランス脂肪酸の食品への使用について18年以降原則禁止とすることを発表しました。

日本では、今のところトランス脂肪酸の表示義務も含有量の規制もありません。しかし、メーカーによってはマーガリンに含まれるトランス脂肪酸をかつての10分の1に減らすなどの努力をし、含有量も公表しています。こうした動きを一部のこととするのではなく、せめて表示義務だけでも実現し、政府および企業は消費者への情報提供を積極的に行ってほしいところです。

話がマーガリンの負の要素ばかりに流れましたが、バターもいまだ問題を抱えています。バターやラードなど、肉類や乳製品の動物性の脂質を、魚や植物性の脂質に置き換えることは、より健康上の利益があると多くの科学者は報告しています。

 
大西睦子
内科医師・医学博士。東京女子医科大卒業。国立がんセンター、東京大学を経て、2007年から13年まで、米国ハーバード大学リサーチフェローとして、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。著書に『健康でいたければ「それ」は食べるな』『カロリーゼロにだまされるな』など。