「政権を鍛える野党」という意味

【塩田】2度目の安倍晋三首相が5年目に入りました。ここまでの政権運営は。

【松井】アベノミクスについては、デフレ脱却のために「3本の矢」の金融緩和と財政出動はやはり必要でしょう。ですが、3本目の規制改革と成長戦略は自民党ではやりにくいし、安倍首相が旗を振っても、族議員のみなさんは各種団体がバックボーンで支援者だから、規制を守りますよ。今の自民党の限界です。

ただ、日本の舵取りを民進党がやると、とんでもないことになる。日本維新の会はまだ力を蓄えていません。日本のために安倍内閣が政府の運営に当たるべきです。安倍内閣にピリッとした改革をやらせるために、「是々非々」の野党が存在する意義があると思っています。安倍さんは小泉純一郎元首相と違っていろいろな人との人間関係も大事にするから、大なたを振るうのではなく、話し合いの積み上げになる。規制改革は非常に時間がかかります。実際にやろうと思うと、外圧が必要です。維新が外圧の役割を果たすことができれば、と思います。「政権を鍛える野党」と言ってきましたが、そういう意味です。

たとえば教育の無償化も、われわれが国政選挙で掲げてきた公約ですが、未来への投資ということで、憲法を改正してでも必要かなという雰囲気が出てきています。それはもしかすると安倍政権や自民党の手柄になるかもしれないけど、それでいいんですよ。

自民党は投票率が高い高齢者にばかり目が向いていて、税金の使い方を変えることができなかった。維新が国政に進出し、国の未来を背負う子どもたちへの投資が重要、と言い出して、政府も動かざるを得なくなってきた。日本のためにプラスだと思いますね。

【塩田】松井さんは安倍首相とは、いつどんなことから付き合いが始まったのですか。

【松井】第1次内閣のとき、安倍首相は2006年12月に教育基本法改正を実現しましたが、志半ばで辞任となった。僕たちも日本の教育を変えるために教育基本法の改正が必要と思っていた。教育は聖域で、政治が口を出したりコミットしてはダメという考え方が根を張っていましたが、知事や市長が選挙の公約で「こういう教育を」と掲げても、当選すれば教育に口を出せない。これでは選挙民を裏切ることになるから、教育基本条例をつくることにした。ポイントは大阪の教育の方向性について、知事が教育委員会と協議して決定をするという点です。それで2012年3月に大阪府で教育行政基本条例をつくった。そのときは日教組を含め先生は全部、反対。教育委員会も教育委員が全員、辞表を出したくらいです。

その後に教育のシンポジウムをやる団体が、僕と首相を辞めた後の安倍さんに声をかけた。当時、自民党は野党で、安倍さんの復活はないだろうと言われていたけど、僕らが教育行政基本条例をつくったとき、「大阪はよくやったよね。シンポジウムに出席しよう」と言って出てくれた。それが僕の名前を覚えてもらえるようになる出会いです。シンポジウムの後、食事しながら話をした。教育行政基本条例を全国に広げないといけないけど、大反対にあうから、これをやれる知事や市長はいない。僕らは「国で法律で変えてくれれば、全国に広がりますよ」という話をした。安倍さんは「そうだよね」と言っていましたが、そのときは安倍さんも首相として復活するとは考えていなかったし、僕も思っていなかった。