「右脳×左脳」のコミュニケーション戦略とは

米国において政治・経済・社会・技術などが急速に変化しているなかで、民主主義の根幹を担う報道の自由や知る権利自体もその在り方が問われているのではないか。それが本稿における最大の問題意識であった。ここで主要メディアが考えなければならないのは、どうしてトランプがコア支持者層から「受けている」のかということをきちんと整理しておくことである。

人はシンプルで明快なストーリーを提示されないとなかなか簡単には動かないものだ。物事が複雑なままでは多くの人は、自分がどのように考えたらいいのかわからない。

そこで「単純明快×共感」という右脳と左脳の掛け合わせによるシンプルで明快な構造を打ち出していくことが、コミュニケーション戦略として重要となる。

人間の左脳は、ロジックや論理性をつかさどっている。左脳に対しては、シンプルで明快なロジックで物事を説明してあげることで納得感が生まれてくる。いわゆる「腑に落ちる」という感覚である。この感覚が生まれてくると、人は自発的に行動しようとする意欲が湧いてくる。トランプは、例えば経済政策においては、TPPという一般の人に説明が難しい政策よりは、「メキシコ・中国・日本が米国の労働者の仕事を奪ってきた」と保護主義を掲げた。側近によると、トランプもTPPの米国に対するメリットを理解していないわけでは決してなく、その方が一般の人にはシンプルで明快でわかりやすいからTPP離脱を表明したという側面が大きいとのことである。

一方で右脳は、クリエイティビティーや感情をつかさどっている。右脳に対しては、シンプルで明快なストーリーで説明してあげることで共感が生まれてくる。共感が生まれてくると、人は自分のためだけではなく、共感を持った相手や他の人達のためにも頑張ろうという意欲が湧いてくる。

トランプは、コア支持者層が長年にわたって感じてきた「現状への怒りや不安をわかってほしい」「現状への怒りや不安を代弁してほしい」という気持ちに強い共感を示してきた。さらには単に共感するだけにとどまらず、コア支持者層の「現状への怒りや不安を代りに吠えてほしい」という切望をまさに代わりに叶えてきた。これが、トランプがコア支持者層から「受けている」理由なのである。それは、「自分自身で納得していることなのでトランプのために頑張ろう」という意識と、「自分が共感したことなのでトランプのために頑張ろう」という意識とが掛け算になっているから強力なのである。