ネイティブの英語の理解力は非常に高い

松坂ヒロシ・早稲田大学教授

【三宅義和・イーオン社長】これからの時代、英語もノンネイティブ同士で会話していることが増えると思います。その際、「通じる英語」の基準はどこにあるのでしょうか。簡単な文法と単語、それにジェスチャーで間に合うこともあります。すると、どうしても「発音なんて……」という議論になりがちですが、松坂先生はどう考えられますか。

【松坂ヒロシ・早稲田大学教授】例えば、IT業界のビジネスマンが「自分は仕事柄、インドの人とコミュニケーションするから、インド的な発音をするんだ」と言ったとします。私は、それはそれでいいことだと思います。

そのように、特定の発音が自分に有利だという人はいます。ですから、そういうふうな立場になったら、少し発音を修正すればいいでしょう。けれども、学習者が中・高・大学で英語を学んでいる段階では、一応、標準的な発音を教えるのが、われわれ教師の役目であると考えています。

さて、通じる英語にただひとつの特定のパターンがあるわけではありません。通じるかどうかは相手によります。英語のネイティブスピーカーの理解力は非常に高く、こちらの英語が不完全でも相当理解してくれます。相手がネイティブでないと、そこまでは期待できません。そこで私たちは、通じにくい状況で、なるべく通じるようにということを心がける必要があります。では、それはどんな場合かというと、私の考えでは、話し手の柔軟性がカギになると思います。相手が理解していないと感じたら、発音をより明確にするとか、やさしい文法に変える、短いセンテンスにしてみるといった臨機応変な対応が、通じる英語の眼目でしょう。

そういう柔軟性を発揮するためには、かなりの英語の底力がなくてはなりません。その力には英語そのものを知っていること、つまり、単語や文法や発音の知識があることがあり、また、それをどんな場面で使うかという判断力も同時に求められます。

【三宅】日本人らしい英語というものがあるとすれば、それはどのようなものなのでしょうか。また、私たちはどんな英語を規範として学ぶ必要がありますか。

【松坂】日本人らしい英語というものがあるかどうかわかりません。もし、あるとすれば、それは話す人からにじみ出るものであって、わざと演技して作るようなものではないと思いますね。さきほど申した通り、規範とするなら、伝統的な、英語圏で教育を受けた人の英語がいいでしょう。その発音に近づこうと努力する過程で、どうしても母語の影響が出てしまうとすれば、それが日本人らしい英語かもしれませせん。