何かの犠牲を覚悟することが政治の本質なんだ

政治とは解決すべき課題に優先順位を付けることだ。優先順位を付けるということは、何かを落とさなきゃならない。この究極の判断が政治判断なんだ。

IS(イスラム国)の壊滅、アサド政権による人権侵害の阻止(アサド政権打倒)、シリアの安定、難民流出の阻止、西側諸国からのロシアへの圧力、トルコ・エルドアン政権の人権侵害阻止、イラクの安定、中東・アラブ諸国の安定、イスラエル・パレスチナの二国共存……。

挙げればきりがないけど、これらを全部達成することは西側諸国にとって悲願だ。でも全てを一気に達成できるわけがない。だから優先順位を付けるしかないんだよね。ここできれいごとを重視する政治家は、全てを達成するかのごとき言葉を発する。そのような演説をする。そしてそれに酔いしれる。しかし結局は何も実現できずに有権者は失望する。これがきれいごと政治家の典型例。

自称インテリの特徴は、口で言うだけで解決する責任を負わないから、問題点の指摘だけに終わる。難題になればなるほど自称インテリは具体的な解決策は言わない。

ホンモノの政治家はここで問題解決を実行するために、シビアな優先順位を付ける。まず解決することで最も効果が高いであろう課題の解決に全力を尽くす。そしてその際、何かを犠牲にする。この「犠牲を覚悟する」ことが政治の本質なんだよね。

犠牲を覚悟するということは、当然、犠牲を強いられる者から猛反発を受ける。それでも全体の多くの利益のことを考えて、何かの犠牲を覚悟する。これ、ほんとしんどいよ。僕は大阪というエリア内だけでも、いつもこのような判断にぶつかっていた。

トランプのおっちゃんは、ISの壊滅を優先順位の第一に挙げているね。そのためにはロシアと組む。ということは、アサド政権を容認するということだ。アサド政権はシリア国内では国民や反対派に対して残虐非道の限りを尽くしている。しかし世界各国でテロ行為をやっているわけではない。世界各国にとって、ISとアサド政権はどちらが現実的な脅威か? そりゃ、ISなんだよ。

アサド政権は、「人権」という理念に反している。シリア国内ではアサド政権によって多くの命が奪われている。でも冷淡な言い方になるけど、それはシリア国内での話。世界各国にとっては脅威ではない。他方、ISは世界各国にとって、テロという形でもろに脅威になる。人権というきれいごとよりも、アメリカ国民の安全・安心重視からすれば、まずはとにかくISの壊滅。アメリカ・ファーストを掲げるトランプのおっちゃんとしては筋が通っている。そして実際、ISを壊滅した場合、世界各国にとってはこれほどありがたい話はない。人権という理念を重視するか、それとも自分たちにとっての現実の脅威を取り除くか。ここは判断の分かれ目だけど、僕なら後者を選ぶ。

人権重視なんてそんなことは言われなくても分かってる。たとえ批判を受けてでも課題解決のために実行することが政治なんだ。

そして難民問題。この問題は、「難民全てを受け入れる」という寛容の精神だけで問題が解決するわけではない。ドイツのメルケル首相は、寛容の精神だ! ときれいごとを言うけど、じゃあ難民を受け入れることで全ては解決するの? と問えば、根本的な解決策は全く持ち合わせていない。

トランプのおっちゃんは、難民を受け入れることが、難民問題の根本的な解決策じゃないことを分かっているんだろうね。根本的な解決策は、難民を出さないこと。難民を出さないためにはシリアにきっちりとした統治主体を作り、シリア国内をまず安定させなければならないということをね。北朝鮮の金一族を倒すことができない中国の事情と同じだね。イラクでもフセイン政権を倒した後の混乱はひどかった。安定のためには、残虐非道な非民主主義的独裁的政権であっても、統治できる主体が必要だという冷徹な判断。そのような判断の結果、アサド大統領にシリアを安定させてもらうしかない、それが難民を出さない方法だという考えになったのだと思う。シビアな苦渋の判断だ。

国際政治の専門家でこんなこと言っているのは皆無だね。自称インテリは、ロシアと手を組んでアサド政権容認なんて、そんな西側諸国から猛バッシングされるようなこと、そして自称インテリの世界で人権無視だ、あいつはバカだと批判されるようなことは口が裂けても言えないだろうからね。

さらにトランプのおっちゃんは、シリア内に安全地帯を設けるとも言っている。ロシアに命を救われたアサド政権はロシアの言うことは聞くだろう。そうであればアメリカとロシアががっちり手を組んで、シリア内の安全地帯の安全性を担保する。そうすればシリアの中に安全な場所が作られ難民も流出せず、このエリア内では人権が守られる。アメリカとロシアが後ろ盾なら鬼に金棒だ。トランプのおっちゃんがここまで考えていて、それを実行したなら、それこそ問題解決策のウルトラCだよ。現実の政治パワーの力関係をよく見ている。

ところが人権というきれいごとを言い続けたこれまでの西側諸国、特に難民受け入れ=寛容というきれいごとを言い続けたドイツは、シリア・難民問題を何一つ解決できなかった。自称インテリも人権、寛容と口で言うだけ。国際政治学、外交、安全保障の専門家と名乗る者は、状況をきれいに整理して「説明」することはうまいし、問題点の指摘もする。政治家の心境や将来の見通しについて妄想交じりで推論する。ただし、ほとんど外れるけどね。でもそこまで。苦渋の判断の下での根本的な問題解決策を示すことはできない。ここが専門家の限界。やっぱりきれいごとだけでは、難題は解決できないんだよ。下品であっても、犠牲を伴ったとしても、どれだけ批判を受けようとも、根本的な問題解決に挑むのが政治なんだ。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.39(1月24日配信)からの引用です。全文はメールマガジンで!!

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政界に突然彗星のごとく現れた男は、大阪の何を変え、誰と戦い、何を勝ち得たのか。改革を進めるごとに増える論敵、足を引っ張り続ける野党との水面下での 暗闘をメルマガ読者だけに完全暴露し、混迷が続く日本経済、政界の指針を明確に指し示す。政治家、弁護士、そして、7人の子どもを持つ親として、読者から の悩みごと、相談に、ズバリ答えていく。大物との対談も掲載!