日本人が目指すのは「コピー&インプルーブ」

ロッカールームに隣接する本社2階のラウンジ。ビリヤード台や雑誌が置かれ、選手が思い思いにくつろぐ場として開放。

【安田】あの後、メジャーリーグは20年で市場規模を5倍にしています。ところが、日本のプロ野球はほぼ横ばい。一気に差がついてしまいました。それまでメジャーリーグでは戦力が一部の球団に集中していました。それを分散する方針をとったのです。シーズン終盤までいかにスリリングな展開にするのかをリーグ全体で考えて、様々な工夫をしました。ベースボールはアメリカの文化だから、と一括りにされますが、実は具体的な努力がそこにはあります。日本のスポーツ界はそこから目をそらすのではなく、学ぶべきだ。日本が明治維新、そして戦後の復興期、二度とも欧米から学んだのと同じです。

【弘兼】明治維新の際には外国の外交官との社交場として鹿鳴館をつくり、議会制度も欧州を真似した。かつての日本人は、他国のいいとこ取りをしていました。

【安田】僕の考えでは、日本人はイノベーティブ(技術革新的)ではない。そこを目指しても仕方がありません。では何が得意かというと、「コピー&インプルーブ」です。

【弘兼】真似をして、改良していく。戦後の日本の製造業がそうでした。

【安田】松下幸之助さんも本田宗一郎さんも世界に憧れた。そして、それに近づくために模倣した。日本の繁栄をつくったのはそういう人たちです。しかし、最近の日本人は世界を見ない。世界と日本が乖離しているのに、文化、歴史が違っていると言って片付けてしまう。テレビをつけても、日本を讃える番組が増えている。極めて危険な状態です。

【弘兼】日本はこんなにすごいという類いの番組が目立ちます。

【安田】あえて、団塊の世代である弘兼先生に言わせていただくと、僕の父親の世代、弘兼さんの世代というのは、景気がよくて、需要があったから、運がよければお金儲けができた。多少の苦労はしたかもしれないけど、その前の世代がつくったもののおいしいところだけ取っているように見える。一方、僕らは、いわば「尾崎豊」の世界。「何のために生きているんだ」という疑問から始まっています。自分の幸せというのは、大きな会社に入って、出世するというのでも、莫大な金を稼ぐというのでもない。経済誌などにベンチャー企業経営者の対談とかが載っていますが、僕としてはまったく参考にならない。株価を上げる、資産を増やす、そういう話ばっかりですから。

【弘兼】物質的な成功では飽き足らない。精神的な充足を求める世代なのですね。

【安田】僕の親父は、中卒でした。そして、一生懸命働いて、僕を大学まで出させてくれた。息子である僕は、親父の世代よりも、この世の中をよくして次の世代に渡さなければならないという義務感みたいなものがあります。それが今の僕を突き動かしているのです。

※売り上げ構成は、スポーツ用品、スポーツ施設、スポンサー費、広告費など。