――企業業績を見通す場合、昨今の日本ならではの注意点は何かありますか?

北尾 「政策不況」「行政不況」という言葉が生まれていますが、経済が政治に振り回される恐れが現在の日本には大です。ある日突然、法律や制度が変わる。そのリスクにも気を配る必要があります。

たとえば、ガソリンの暫定税率の件。あるいは、消費者金融に関しては、グレーゾーン金利が急に禁止され、過去にまでさかのぼって適用されることに。その結果、経営難の企業も出てきます。新生銀行はその分野へ、既存企業を買収して進出しようと図っていましたが、日本政府の唐突な決定に怒り心頭でしょう。

――個人的に大きく儲けが出た投資は過去にどんなものがありましたか?

北尾 証券会社時代は社員は株取引は禁止です。その後も、株は自分から求めて買ったことはありません。ほとんどはストックオプションか、「現金が必要なので、ぜひ私の持ち株をいくらか買ってください」と頼み込まれて買ったケース。このときは売る際に5倍になりました。

――不動産への投資はどうでしたか?

北尾 入社わずか5年目に買ったマンションが値上がりし、2倍半以上で売れたのは非常にラッキーでした。

1979年のこと。都内の北品川に自宅用として3LDKのマンションを買いました。価格は収入の5倍よりはるかに上。自己資金ゼロ。頭金は父親から少し借りただけ。大半は銀行から借金です。

大和銀行(当時)の支店長といろいろ交渉しました。「海外留学したので海外勤務になる可能性がある。その間は他人に貸せば家賃をローンの返済に充てられる」などと説明。周囲から「無茶だ」「分不相応だ」と言われましたが、当時としては大きな買い物に踏み切ったのは、次のような、確率の高い予想に基づく合理的判断によるものです。

まだインフレ傾向が続き、固定金利の支払いの将来価値は減価する。日本経済の発展と直接金融の比重増大で野村証券の業容は拡大、自分の収入も増える。東京の不動産価値はさらに上昇する……等々。また、独身だったので借金でもしないと、給料はみな飲み代に消えるだけ。ローン返済は自分にとって“強制貯蓄”だとも考えました。当時、いまが一番安いと判断しての購入です。

幸い予想は当たり、その後、購入時の2倍半以上の価格で売れました。しかし、会社の独身寮暮らしより生活を充実させたいと考えての購入であり、けっして欲のためではありませんでした。

(小山唯史=構成 大沢尚芳=撮影)