朝4時からチーズづくり

東京・渋谷の外れにユニークなチーズ店があります。2012年に開業した「チーズスタンド」は、毎日店頭で出来たてのチーズを製造して、販売しているのです。店主の藤川真至さんは、かつてイタリアを旅行した際に食べた出来たてのチーズの味に感銘をうけ、いつか日本でこんな商売をしてみたいと思ったのが店を始めたきっかけだそうです。

渋谷「チーズスタンド」

チーズスタンドでは毎朝4時に届く乳をもとに、モッツァレラやリコッタなど一般的に「フレッシュタイプ」と呼ばれるナチュラルチーズを主につくっています。近隣に住んでいる人や仕事をしている人がふらりと買いに来たり、あるいは周囲の飲食店に卸したりしているのです。

こうした営業形態は何かに似ていると思いませんか? 実は、藤川さんは「街の豆腐屋さん」のような存在でありたいと思って、この店を始めているのです。最近ではそうしたお店も減ってしまいましたが、豆腐屋さんも朝早くから豆腐づくりをはじめ、近所の主婦や居酒屋の店主が買いに来たりするものです。

いくらチーズが普及したといっても、ナチュラルチーズ、中でもフレッシュチーズはまだまだ私たちの食生活においては特別な存在です。こうした状況に対して、チーズスタンドはまるで豆腐のようにチーズが日本人にとってなじみ深いものになっていく未来を思い描いて、日々奮闘しているのです。

市場規模が過去最大になったとはいえ、チーズの世界はまだまだ奥深く、私たちの知らないことばかりです。今度スーパーの棚の前で立ち止まって、いつもは手にしないチーズをじっくりと眺めてみてはいかがでしょうか。

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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