カカオ豆の生産者と共同開発する理由
大半の「Bean to Bar」は、豆にこだわっているとは言え、さすがに特定の生産農園との付き合いはなく、単に買い付けているだけだ。
ところが、Minimal(Bace)では、フィリピン、ベトナム、ニカラグアなどの生産農園に製造責任者の朝日将人(まさと、39歳)が実際に赴き、カカオ豆や生産者を見極め、共同開発なども行いながら、買い付けている。こうしたやり方は世界的にも珍しく、日本では他にないだろう。
2015年12月には、フィリピンの生産農園と提携して、独自に5種類の方法で発酵させたカカオ豆で作った特別なチョコを限定販売した。カカオ豆は収穫後、果肉と共に発酵させることで独特の風味や酸味が生まれる。
「私たちはカカオ豆や生産者を選ぶだけでなく、生産者と一緒に発酵から関わりたいと、専門家の先生の助言の元、糖分の量や撹拌回数を変えるなどして5種類のパターンで発酵させたところ、同じ豆なのに全て味が変わったのです」
Minimalはここまで原料にこだわる。
また、コロンビアのアルワコ族が栽培したカカオ豆を発掘して、Minimalでしか扱っていない製品も売り出した。
「このカカオ豆の量はたった60キロ。少なすぎて大手では手を出せないんです。ぶどうジュースのような独特の風味でしたよ」
生産農園との提携や製造全体を統括する朝日は「おいしいチョコを作りたいというより、カカオ豆の素材の味を引き出せればいいと考えている。ワインのような世界観でチョコを表現したい」と語る。朝日の力と思いがあってMinimalの製品ができた。Minimalというブランド名も和食のように余計なものを加えず、純粋に素材の味を引き出したいという思いに由来している。
Minimalでは生産量が限られているので、大手のように大量に豆を仕入れることはできない。そのため、当初は豆を売ってもらえず、悔しい思いもしたという。そのため、山下や朝日は何度も現地に通い、生産者たちと信頼関係を作った。
多くの生産者たちは原料を作っていても最終製品のチョコを食べたことがない。そこで、現地でチョコを実際に作り、生産者に食べてもらった。
「生産者がチョコの味を知ると、ものづくりへの気持ちが変わるのです。誰もがいいものを作りたいという気持ちを持っているので、おいしいチョコを作るために栽培や発酵を考えるようになりました」と朝日は語る。