木造建築の大工職を大学や大学院卒の憧れの職業に変えた企業がある。沼津市に本社を置く平成建設には、200人以上の大工・多能工がおり、その多くは大学や大学院建築系の卒業者である。東大、京大、東工大、東京芸大、早大、慶大など高偏差値の学生が続々と入社するその秘密とは――。

大工を再び憧れの職業にしたい

かつて大工は子供たちの憧れの職業の一つだった。だが、木造の在来工法から鉄筋・鉄骨の近代工法に時代は移り、1980年代に100万人いた大工がいまは40万人以下。しかも、若者が新たに大工を目指さないため高齢化が進み、50歳以上が中心だ。

「このままでは在来工法を担う大工がいなくなってしまう」と、立ち上がったのが、平成建設創業者であり、社長である秋元久雄(67歳)だ。

秋元久雄・平成建設社長

秋元はこれまで誰もやらなかった独自の方法で、大工を魅力ある職業に変えた。その結果、同社には有名国立・私大の大学・大学院卒の学生が次々と入社、全国的にも珍しい「高学歴大工集団」に成長した。

全社員の約4割に当たる200人以上が大工など現業職だが、その多くが新卒採用組だ。東大、京大、東工大、東京芸大、早大、慶大など一流大学の出身者もおり、大半が建築系である。地方の国立大出身者も多く、8割が県外からの採用であり、決してUターン組ではない。有資格者も多く、1級建築士が59人、1級建築施工管理技士が49人、1級建築大工技能士が24人など資格取得者は150人近くにものぼる。まさにプロ集団だ。

平成建設は、静岡・神奈川・東京を主な営業エリアとして、賃貸マンションの建設・経営、戸建て住宅の建設、リフォームを手がけている。木造の在来工法を得意としているが、売り上げの4割が賃貸マンション、残り4割が注文住宅やリフォーム、2割が店舗など商業物件の建設だ。業績は好調で1989年の創業以来、25期連続で増収を続けている。2015年度は少し、売り上げを落としたものの、年商は150億円に達し、社員総数は575人を数える。中小企業と呼ぶには規模が大きいが、秋元の経営方針はまさに「進化系」にふさわしい。

大工職を変えたと言うより、本来は大工の「復権」というべきなのかもしれない。手品のように住宅を組み上げていく大工はもともと子供の憧れの職だった。その大工たちを統べる棟梁は尊敬される存在である。秋元の父も祖父も棟梁だった。しかし、秋元自身は高いところに登るのが嫌いで、家業を継がず、後述するように紆余曲折を経ながら、結局、大工の世界に帰ってきたのだ。

大工の伝統を大事にしながらも、育て方は近代化した。師弟関係の中で技を盗んで覚えるようなやり方では、現代の若者はついてこない。技術の習得を体系化し、大工だけではなく、設計、施工管理、営業、弟子の育成までできるかつての棟梁を目指すべく多能工化を図っている。