誰も引用しない「孫の言葉」
一方のauは、代理店経由のためか、鈴木氏が疑問点を問いただしても「本社に問い合わせます」と答えるのが精いっぱい。このこともソフトバンクには幸いした。
両社の最終提案が出揃ったあと、11月に新川社長の前で鈴木氏がプレゼンを行い、14年からの取引企業を決定した。結果は、ソフトバンクの逆転勝利。
「提案の中身は本当に僅差でした。決め手は、お客である我々の立場に立って契約内容を見直してくれたという部分です。そこは本当に素晴らしいと思いました」(鈴木氏)
ソフトバンクとの付き合いのなかで、印象的だったことがあると鈴木氏は言う。
「社員の方から『孫社長がこう言っていました』という話は、一度も聞いたことがないんです」
カリスマ社長が率いる会社では「当社の××が」という文脈で話をしがちだ。それが一切ないという。
孫氏の語録の一つに「新入社員の発言でも、それが正しいことならば会議を通る体質にしておかないと会社は成長できない」というものがある。だとすれば「社長の言葉が絶対」などということはありえない。社風は徹底しているのである。
(的野弘路=撮影)