燃費不正の「動機」は無謀な目標引き上げ

燃費不正に三菱自動車が手を染めた背景は、大きく3つある。第1に、同社の企業文化や体質を根源とする問題である。同社では2000年、2004年の2度にわたり大規模なリコール隠しが発覚している。あれだけの危機を経験しながらも、問題を隠蔽する体質が変わらないのはなぜか。「三菱」のブランドによる「大企業病」が、甘えの構造をつくっているように思う。

第2に、低コストと低燃費を両立させることの難しさだ。日産自動車と三菱自動車は合弁会社「NMKV」を立ち上げた。この時、各社が新開発のプラットフォームや最新鋭エンジンを搭載する中で、NMKVの新規モデル開発のベースとなったのは、2006年に発売された三菱「i」のエンジンだった。なぜ1世代古いエンジンを採用したのか。NMKVが望むコスト削減を成立させるためには、古いエンジンを採用せざるをえなかったと考えられる。

第3に、軽自動車の開発過程で、目標燃費値を5回にわたり引き上げた事実である。08年の「リーマンショック」以来、軽自動車市場の競争環境は激変した。経済危機を受け、海外自動車販売が落ち込んだ結果、各社がこぞって国内軽自動車の強化策を打ち出したためだ。

NMKVの新型モデルの開発が最終段階を迎えていた2012年秋、スズキは9月に「ワゴンR」で28.8kmの低燃費を叩き出し、これを追うようにダイハツは12月に29.0kmの「ムーヴ」を投入した。NMKVの新型軽の目標燃費は26.4kmから始まり、この段階では28km程度まで引き上げられていたが、最終段階でライバルを上回る29km、最後は29.2kmへ燃費目標を引き上げた(※2)。 残された開発期間を考えれば無謀に近い決断であり、不正へ走る大きな動機となったであろう。

燃費不正問題は、規制の強化に監視体制が追いつかないという構造的な問題を浮き彫りにした。米国での現代自動車の燃費偽装、欧州・米国でのVWの排気ガス不正など、本来は規制当局と協調関係にあるべき自動車メーカーが、規制の抜け穴に逃げ込むケースが相次いでいる。

こうした動きに対し、欧州委員会は2つの改革を打ち出している。第1に、実走行での試験体制を実現すべく、17年9月の「Euro6c」からRDE(実走行モードでの排気ガス規制)を導入する。第2に、型式認証制度の見直しだ。その内容には、(1)検査・評価機関の監査体制、評価の質を高める、(2)市場販売後に抜き打ち監査を実施し、適合検査を強化する、(3)欧州委員会のガバナンス力を引き上げ、監査力、懲罰などの行政力を引き上げる、の3点が含まれる。狙いは、曖昧さのあった型式認証のグレーゾーンの明白化である。

今回の問題は、日本の燃費政策の議論を深める好機でもある。日本のエコカー減税の仕組みは「トップランナー方式」と呼ばれる。これは車両重量別に燃費目標基準値を設定するもので賛否両論がある。真の「エコ化」を促す燃費政策の枠組みとはなにか。燃費試験モードの国際基準調和(WLTP)を促進し、思い切って、カタログ燃費と実燃費とのギャップ解消にも決着をつけるべき時期に差し掛かってきたといえるだろう。