落ち込む選手にどう声を掛けるべきか

【入山】それは大事なポイントですね。

【手倉森】監督は自分のことを見てくれている、もっと成長できるように気に掛けてくれていると、選手に感じてもらえれば心を開いてくれるはずです。

もし試合でいいパフォーマンスを出せずに落ち込んでいる選手に、「おまえ、あのプレーは何なんだ」といきなりダメ出ししてしまうと、その瞬間にどんなアドバイスも受け付けなくなる。でも、次の日の朝一番に、「昨日の試合のことを振り返ってみろ」と声を掛けたら、「ああ、監督は昨日の俺のことを気にしてくれていたんだ」と思うもの。そうなれば、自分からいろいろと話してくれるようになりますよ。

【入山】なるほど。ということは、20人以上の選手全員を、1人ひとりきちんと見ているということですよね。そのうえでタイミングを計って、適切な言葉を掛けてあげている。昔なら経営者やリーダーは「ああしろ、こうしろ」と指示を出していれば済んだものを、これは大変な労力と観察力ですね。

【手倉森】メンバーから外した選手のことも気にしますよ。腐ったりせずに、レベルアップを図っているようなら、再チャレンジのチャンスも与えます。もともとそういう性分なんですよ。例えばスタッフから何かを聞くと、自分で確認したくなるんです。「選手がこんなことを言っていました」と耳にすれば、「コーチから聞いたんだが、どうなんだ」と直接話を聞きたいんです。最後は自分が決断するわけですから。

【入山】それも経営者と重なります。最近の優れた経営者は、どんどん現場に出ていって、社員と話をします。決断するのは自分だから、自分で見たいんですね。

【手倉森】日本サッカーを強くするために必要なのは自分たちは弱小国なんだという意識です。海外でプレーする選手が増え、ワールドカップも5大会連続出場したけど、日本が強豪国かといえば、決してそうではない。「俺たちは強いんだ」と思った時点で間違えると思うんですよ。日頃から高いレベルで戦っている海外組の選手には、すごく謙虚な選手が多いですよ。

【入山】私も研究者のはしくれとして10年アメリカにいたのですが、世界には素晴らしい知性が輝いていることを痛感しました。海外組はいかに世界は広く、自分はちっぽけか、よくわかっているんでしょうね。

【手倉森】U-23年代にも海外でプレーしている選手がいますが、彼らは名前を覚えてもらう前に、まず「ジャパニーズ」と呼ばれるわけですよ。だから日本代表として戦う誇りを、より強く感じている。国内組も、Jリーガーになっただけで満足してほしくない。日本はまだまだ弱いんだ、ではどうしたら道が開けるのかと真剣に考えて、本気で世界を目指していかないと。成功だと思った時点で終わりですよ。