11月の米大統領選に向けた共和党の指名争いでトップを走るドナルド・トランプ氏が世界の熱視線を浴びている。数々の過激な言動はあまりに有名だが、その人物が「世界の警察官」たる米国のトップに就けば、多くの国々はその外交・安全保障環境が一変するためだ。日本に対しても物議を醸す発言を繰り広げており、政界には動揺が広がっている。

「我々が攻撃されても日本は防衛する必要がない。米国は巨額資金を日本の防衛に費やす余裕はない」。3月26日の米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)はトランプ氏のインタビューを掲載し、在日米軍撤退の可能性に言及したと波紋が広がった。トランプ氏は日米安全保障条約を「片務的だ」として安保条約改定も求めている。

日本政府内には「政治音痴」「外交無知」のトランプ氏を警戒する向きも強いが、保守派の政治家には期待論もある。その理由は、日本が北朝鮮の脅威に対応するため「核武装」を容認することも示唆したからだ。トランプ発言をきっかけにタブー視された「核武装」論議を展開できる保守政治家は勢いづく。

早速反応したのは、おおさか維新の会の松井一郎代表(大阪府知事)で、「完璧な集団的自衛権という方向に行くのか、自国ですべて賄える軍隊を備えるか、そういう武力を持つならば最終兵器が必要になってくる」と主張した。核開発を進める北朝鮮や海洋進出を強める中国の脅威を前に、防衛省幹部も「今後は自主防衛力をいかに強化するか堂々と議論できる」と語る。

保守派の代表格である安倍晋三首相は「次の米大統領が誰になるにせよ、日米同盟は外交の基軸だ」と評するにとどめるが、自民党内からは「拉致問題解決のためには、北朝鮮へのムチを増やす必要がある」との声もあがる。

ただし、トランプ氏は在日米軍撤退とともに日本の安保上の役割拡大も要求している。米国発で自衛隊の活動拡大を求める声が強まっていけば、安保法廃止を訴える野党側に攻撃材料を与えることにもなる。政府・与党内は「静観せざるをえない」との見方が大勢で、今夏の参院選を前に有力な大統領候補者との距離感をつかめずにいる。