高齢者施設のチェック体制を確立すべきだ

神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホームで2014年に入所者が相次いで転落死した事件は、元職員が殺人容疑で逮捕されるショッキングな結末を迎えた。現時点では全容が明らかになっていないが、この事件は逮捕された元職員個人の心の闇の問題では片づけられない。日本全国の老人ホームや介護施設で入所者への虐待事件は後を絶たない。厚生労働省の調査によれば、14年度の施設での高齢者虐待は前年度から3割以上増加して300件。これは市町村が虐待と判断した数字にすぎず、認知症などの影響で被害が表に出てこないケースがどれだけあるかわからない。

入所者3人が相次ぎ転落死した有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」。(写真=時事通信フォト)

川崎市のような事件を防ぐために直ちにやらなければいけないのは、高齢者施設に対する監査指導体制の強化である。すべての施設にビデオモニターを設置し「見える化」をする、などはその第一歩だろう。そもそも社会福祉事業の一翼を担っているという認識が希薄で、介護事業で儲けることばかりに経営者の関心が向いている悪質な施設が少なくない。本来なら高齢者施設のあり方、道徳的な考え方を含めた規範というものを厚労省がきちんと示して、外郭的な組織を設立して、それが守られているかをチェックするべきだと思う。

施設の許認可ももっと厳正であるべきだ。責任者の履歴をきちんと調べたうえで与えるようにしたほうがいい。表向きは瑕疵のない人物に届け出させて裏でブラックな人物が糸を引いている場合は、発覚したら即免許停止にする。

定期的な監査も必要だ。施設をチェックして回るだけではなく、スタッフや入所者、その家族への聞き取り調査も行う。前述の監視カメラの映像はいつでも抜き取り調査できるようにしておく。当然、時間も人手もかかるが、ボランティアを活用すればそうした監査体制を築くのは可能だと思う。「自分もいずれお世話になるかも」というインセンティブが働けば、ボランティアの協力も得やすいだろう。川崎の事件では警察の初動の遅れも指摘されている。警察力に頼らず、民間が積極的にサポートしてセーフガードを築いていかなければ、こうした問題はいつまでたってもなくならない。