高齢者施設での虐待増加の背景には、介護現場の慢性的な人手不足、経験不足がある。失業率3%の今の日本で、3K(キツイ、汚い、給料が安い)仕事といわれる介護職をやりたいという人は少ないし、離職率も高い。ほかに仕事がないような、労働人口でいえば下層の人たちが集まりやすい仕事でもある。

過酷な労働環境で介護ストレスが高じて虐待につながることもあれば、介護に関する知識不足やトレーニング不足が原因の虐待もある。人手を集めて、人材のクオリティを担保するためには、やはり介護職の給与水準を上げていかなければならない。介護現場にお金が回るようにするためには、寄付を推奨するのも一つの方法だ。

日本人は平均3000万円の現預金を残して死んでいくが、そのお金を人生最後の介護生活に活用する。たとえば相続で3分の1、自分の葬式に3分の1を使うとしても、残る3分の1の資産を介護施設に寄付すると遺言しておくのだ。もちろん、寄付金は無税で施設が使えるようにする。寄付してもらえることがわかっていれば、入所者の扱いもだいぶ丁寧になるだろう。

終わりが見えない在宅介護の疲れとストレス

施設以上に高齢者虐待が深刻なのは、孤立しがちな在宅介護の現場だ。厚労省の調査でも、養護者(高齢者の世話をしている家族や親族)による虐待と判断された件数、あるいは相談・通報件数は、施設従事者のそれを優に上回る。

日本では老親の面倒を見るのは子供の役割という考え方が根強いし、「自分の家で死にたい」というメンタリティも強い。特養などの施設も順番待ちでなかなか入れないから、結局、在宅介護しか選択肢がないケースが圧倒的に多い。日本では在宅介護のために仕事を辞める介護離職が年間10万人(一説には30万人)いるとも言われているが、そんな国はほかにはない。自分の仕事を犠牲にしたり、義理の親の世話を理不尽に押し付けられて、終わりが見えない在宅介護をしているのだから、介護疲れや介護ストレスは溜まってくる。それが家族の関係を歪め、虐待の原因にもなっている。最近は子供が最後まで面倒を見てくれるか不安だから、生前贈与をしないで資産を抱えたまま「使い道不明」という高齢者も増えている。介護や相続問題をめぐって、家族関係が非常に殺伐としたものになっているのだ。