革新的なディーゼルエンジン開発のカギは、ディーゼルエンジンの弱点を完全に克服することにあった。つまり、排気ガスを清浄化し、騒音と振動を抑え込み、高速でも快適に走り、しかも価格も消費者の手の届く水準にまでおさえること。これまでのディーゼルエンジンの持っている弱点をことごとく覆す、そんなディーゼルエンジンの開発こそがカギだ。マツダの開発陣はこの問題をどう克服し、ディーゼルエンジン開発に取り組んだのか。
「マツダのディーゼルエンジンは排ガス不正の独VWとどこが違うのか?」(http://president.jp/articles/-/17515)の後編。

なぜクリーンディーゼルはいいことずくめなのか

マツダの開発陣は従来の発想とは違った方向を向いていた。

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高圧縮比と低圧縮比のディーゼルエンジンの比較(図1)

パワートレイン開発本部パワートレイン技術開発部長・寺沢保幸は次のように語っている。

「圧縮比を下げる、開発の目標はこれです。ディーゼルエンジンの基本は、燃料と空気をよく混ぜることであり、よく混ぜればそれだけ排気ガスの浄化性能が向上します。よく混ぜるためにはどうするか? 圧縮比を下げてやるのが有効な手段です。なぜなら、圧縮比を下げてやればそれだけ混合気がよく混じり合うための時間を長くできるからです」

寺沢は、このディーゼルエンジンの開発が始まった2006年当時、パワートレイン先行開発部の主幹を務めていた。そこで、低圧縮ディーゼルエンジンの実用化の可能性を調べる実験を行なったという。具体的には、最終的に限界値以下ではないかも思える14という低圧縮のディーゼルエンジンを製作。これを氷点下30度という非常に低い温度の空間に入れて動かしてみた。しかも燃料は国内ではなく海外で出回っている最も着火性が悪いと評価されている軽油を使用した。

「とにかく回りましたよ。動きました。回れば実用化の可能性があるということです。いける! ということです」

マツダのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」

この時点でマツダの開発陣は、それまでのディーゼルエンジン開発の常識に真っ向から逆らう方針を立てることになった。つまり従来の「高性能を狙うためにいかに高圧縮を維持しながら、高圧縮に伴う排気ガスの問題を克服するか」という発想から離れ、「排気ガスの問題を大きく改善できる低圧縮化を図りながら、同時にいかにエンジンの出力向上を図るか」という真逆の発想をもとに開発に取り組むことになった。

ディーゼルエンジンを燃焼させるには、点火プラグを使うガソリンエンジンと違い、シリンダー内の混合気を圧縮し燃料(軽油)自体に自己着火を起こさせる必要がある。圧縮比が低すぎると自己着火しないため、マツダのエンジニアは自己着火しない圧縮比の下限を探った。その結果、製品化可能な数字は14と決めた。

寺沢が言うように、ディーゼルエンジンの燃焼の基本は、空気(酸素)と燃料(軽油)をよく混ぜることだ。低圧縮化によって両者の混じり合う時間が長くなり燃焼効率が向上し、排気ガス中のNOxとPMの発生も減少する。その結果、マツダは、NOxの浄化装置の廃止に成功した。これによって、他社のディーゼルエンジンに必要な浄化装置の維持が不要となり、エンジン重量の軽量化にも寄与、さらにはコストダウンにも貢献するというさまざまな効果が生まれた。(図1参照)