2016年3月2日(水)

“Not Yet”思考で落ちこぼれが変わる

PRESIDENT 2015年6月1日号

スタンフォード大学教授 キャロル・ドゥエック 構成、撮影=大野和基
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全米で話題の“The Power of Yet”という言葉をご存じだろうか? 人間の潜在能力の可能性を示す言葉として、2014年9月の米TEDで発表されて以来、注目を浴び、ウェブ視聴は250万ビューを超えた。スピーチを行ったスタンフォード大学の心理学教授、キャロル・ドゥエック氏は、パーソナリティ、社会心理学、発達心理学の分野における研究者だ。特に、モチベーションの研究では世界的権威である。
スピーチのもととなった教授の著書である“Mindset :The New Psychology of Success”(邦訳:『「やればできる!」の研究』)は、ビジネス、教育、スポーツに携わる人にとって必読書と言われている。1回の失敗でだめだと思う人、失敗の原因を分析して次へと奮起する人の違いはどこからくるのかを研究し、能力や才能は生まれつきではないことを過去20年間のリサーチから実証している。本来持つ能力を最大限生かし、次へとつなげられる人の成功の秘密をドゥエック教授に聞いた。

「できない」ではなく「まだできることがある」

シカゴの、とある高校の成績にはFという評価はありません。その代わりに“Not Yet”という評価があります。アメリカの学校では当たり前にあるF評価は“Failing Grade”(落第点)という意味。その評価を受けた生徒は「私には欠陥がある」「私は諦めなければならない」と思い込み、持続して勉強しようとするモチベーションを失ってしまいます。一旦、Fという烙印を押されてしまうと、「あなたには将来の希望はない」と言われているようなものです。

スタンフォード大学教授 キャロル・ドゥエック
パーソナリティ、社会心理学、発達心理学における世界的な研究者。達成動機、人間関係、精神保健に関する研究で大きな業績をあげている。

しかし、Not Yetという評価は「あなたは学習目標に対して、まだ到達していないだけで、到達するにはさらに努力が必要である。でも目標への軌道には乗っている」という意味です。その評価を受けた生徒には恥じる気持ちはありません。さらに努力したいというモチベーションにつながるのです。

これは、大人にも当てはまるはずです。例えば、人生において挫折を味わったとき、「絶望的」と思わずに、Not Yetと考えるべきです。「絶望的」と考えると、目的に到達することはないと思えてしまい、それ以上努力をしなくなります。しかし、Not Yetと考えると「成功するにはどの部分を集中的に努力すればいいか」と前向きな思考になるのです。

Not Yetという考え方は、さらに潜在能力を呼び起こす機会をも与えてくれます。学校の成績は、不変の能力の測定であると見られがちですが、実際は「現状、どのように目的を実行できたか」ということを示しているにすぎず、その人の潜在能力についてはまったく教えてくれません。

将来、大きな目的を達成するには、必ずしも自信は必要ありません。成績にこだわる人こそ、一時的な自信を得るために目の前の成績でAを獲得しようとする傾向にあります。しかし、常に自分の能力が査定されていると思うと、逆に自信を維持するのは困難です。

むしろ、重要なことはモチベーションを維持することです。そのためには自身の成長や新しい目的、より大きな目的に向かって邁進するという気持ちを持たなければなりません。そういう気持ちからモチベーションがわき出てくるのです。

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