動悸、吐き気、胃痛……怒りをためると体に変調をきたす

日本人の多くは、怒りに対してマイナスイメージを抱いています。子供の頃から「怒るのはよくない」とすりこまれてきたためでしょう、怒りを押し殺して、葛藤や対立を避けようとする傾向があるのです。

しかし、私に言わせれば、怒りを抑えるほうが「よくない」ことです。怒りの感情が湧くのは、なにかしらうまくいっていないことがあるせい。怒りを抑えてしまうと、そのうまくいってないことを放置することになり、問題解決につながりません。

そればかりではありません。私は精神科医として心を病んだ患者さんの診察をしていますが、怒りを抑え込んだために不眠やうつなどに悩まされるようになるケースはたくさんあります。蕁麻疹、動悸、吐き気、頭痛、胃痛などが出現することも少なくありません。

怒りを溜め込みすぎて、俗にいう「キレる」状態に陥ることもあります。キレると感情のコントロールがきかなくなり、物に当たったり、暴力をふるったりして最悪の状況を引き起こします。そうなる前に、怒りをうまく小出しにする必要があるのです。

ただし、そのときに感情に任せて怒るのは感心できません。怒りの出し方にもバランス感覚が求められます。

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人の心には「怒りの天秤」が存在する

人の心の中には怒りの天秤が存在しています。片方にあるのは、心理学の言葉で言うところの「快感原則」。これは怒りを感じたままに表明して、気持ちをすっきりさせようという心理状態を指します。そして、もう一方にあるのは、「現実原則」。現実に適応しようとする心理状態です。

怒りの感情を抑え込むのは天秤が現実原則に大きく傾いている状態です。大人の対応ですが、現実原則ばかりで行動していると息が詰まります。

逆に天秤が快感原則に傾いたらどうなるでしょう。感情のおもむくまま怒りを爆発させ、その場ではすっきりして満足感が得られるかもしれませんが、相手から恨まれてしまうかもしれません。あるいは「あの人は怒りっぽい」と評価を下げることも考えられます。

怒りを感じたときには、快感原則と現実原則をはかりにかけ、バランスをとりながら伝え方を考えていくのが基本です。それにはテクニックがあり、習い事と同じで訓練して身につけていくことが必要になります。