「自己分析」の勘違い

【若新】ただ自分と向き合ったからといって、個性的な自分を完璧に受け入れてくれる社会が待っているわけではありません。自分を知れば、自分にぴったり合う社会があるのではなくて、自分が社会とどれくらいズレているかを知るだけです。就活における「自己分析」の勘違いは、「自分分析すると自分にぴったりな業界や会社が見つかる」と信じて疑わないことなんじゃないかと思うんです。

納冨順一(のうとみ・じゅんいち)●特定非営利活動法人キャリア解放区代表理事。大学卒業後1年間のニートの後、テレビ局のADを経て、人材業界へ転職。新卒、中途、障害者など幅広い分野で人材ビジネスを経験。企業、求職者の目線に立ちづらい人材業界のあり方に違和感を持ち、もっと時代にあった本質的なアプローチを追求するために特定非営利活動法人キャリア解放区を設立し、現職。年間500名以上の大学既卒生や中退者と企業を繋ぐ就活アウトロー採用のサービスを企画・運営。
キャリア解放区
http://career-kaihohku.org/

必要なのは自己分析ではなく「自己対話」ではないでしょうか。自己と対話したり、内省したりすると、「自分はなんでこうなんだろう」「自分はダメだな」「この部分はなかなか直せないな」と思ったりしますよね。そして社会を見て、「こんな自分は社会とこんなにズレている」ということがわかる。社会とのズレを理解したうえで、「ここはがんばって改善してみよう」とか、「この部分は変えられないから、あきらめよう」とか思うことが「覚悟」です。もしくは、「手放す」とか「あきらめる」ということかもしれません。社会に対する覚悟やあきらめを持って、現実に向き合っていく。このプロセスが重要なんです。

【納富】同感です。就労経験のない若者は、自分の全てを受け入れてくれる会社を探そうと完璧主義に陥っている人がとても多い。極論ですが、自分にとって大切な価値観を守るためなら土下座だってできる、という状態であれば、選択肢はぐっと増えるはずです。もちろん企業に媚びる必要はありません。芯を残しながらも少しだけ柔らかくなるといいなと思います。

【若新】社会とは、個人個人にカスタマイズされているものではなく、どちらかといえば大衆向けにカスタマイズされています。自分のことを知れば知るほど、社会との妥協点や折り合いをつけないといけないはずなんです。

【納富】アウトロー採用に集まる若者たちも、自分たちを受け入れてくれない社会が悪いとか、就活システムが悪いとか、たとえそれが事実だとしても、その段階で立ち止まったままの人は企業から採用されません。問題はすべて自分が引き起こしているのだと気づき、社会と向き合っていける人だけが、「アンティーク」のように光り始めます。