人生は社会に価値を生むために使いたい

【三宅義和・イーオン社長】2010年にグローバルリーダーを育成する「igs」という教育ベンチャーを立ち上げましたね。それまでビジネス界で大成功していたのに、非常にこれは大きな方向転換だと思うのですけれども、なぜ教育に携わろうと決断をされたのですか。

福原正大・igs代表

【福原正大・igs代表】金融機関にいると、30歳の頃に多くの銀行員が「自分は何もつくり出していないのではないか」という疑問に陥るんです。その当時、私もやっぱり思ったのは「この仕事は虚構かな?」というものでした。資産運用を担当していて、仕事は面白かったものの、自分がいなくなったとしても社会には何のインパクトもないという気持ちもどこかにありました。

そんなとき、リーマンショックが起こって、金融がどうやら実業の世界にマイナスの影響を与えていたとわかった。金融っていうのは本来、市場に活力を与えるだとか、あるいは、流動性を供給するとか、リスクを分解するだとか言われてきたわけです。ところが、リスクを分解したはずの証券化によってバブルになり、それが弾け、多くの人たちが損失を被りました。その数年前に『竜馬がゆく』を読んでしまっていたわけですよ(笑)。

【三宅】それは絶妙のタイミングですね。

【福原】毎年、年末に沖縄で過ごすことを決めていて、サンゴ礁の海を見ながら『竜馬がゆく』を読んでしまうと……。

【三宅】もう気持ちが高まってしまう。

【福原】思いが先走ってしまって(笑)。リーマンショックは2008年ですよね。あの事件を機に「人生『竜馬がゆく』みたいに生きられれば幸せだよな」という気持ちがまた深まりまして、金融はどこかでけじめをつけたいなと考えたわけです。確かに、外資系投資銀行は高額な年俸を稼ぐことができる。もう本当に普通の人の生涯賃金を1年で手に入れることも不可能ではありません。

あるときまでは、それがハッピーだと思っていた。しかも、外資系金融ではマネージングダイレクターまで上がってしまうと、他にいろいろなポジションがまわってきて50歳ぐらいまで実質的に安定した給料が10年間入ってくるシステムのようなものもある。でも、死んだときにお金なんて持って行けない。やはり、人生の大切な仕事と時間を社会に価値を生むために使いたいと思うわけです。すると「やっぱり竜馬のほうがかっこういいな」と思って(笑)。

そこで、一時期は政治家になろうかなと考えました。しかし、代議士に当選しても、国の政策に影響力を持つまでには20年はかかるでしょう。それなら、やはり教育だなと思いました。幕末の吉田松陰にも憧れて、教育業界のことを何も調べずに、気合いだけで飛び込んだということです。