何となく、過去のフォーマットをコピペして作っていないか? 数字やデータを並べただけで満足していないか? 必要なのは次のアクションを生む文書だけ──これが一流企業の常識だ。

企画書を書くのは憂鬱である。「そう感じるのは、『企画書は相手を説得するもの』という先入観に囚われているから」と分析するのは、博報堂でブランドデザインを担当する宮井弘之さんだ。

「私自身、企画書を書くのが苦手で、よく上司から『わかりにくい』と怒られていました。博報堂には企画書づくりがうまい先輩がたくさんいます。どこが違うんだろうと考えていたところ、私は上司を説得しようとして、こまかくロジックを積み上げていたことに気づいたんです。結果それが冗長になって、何が言いたいのかわからない典型的なダメ企画書を量産していた」

そこで宮井さんは、伝えたいことが明確になる企画書の骨組みを思案した。まず現状で起きているファクト(事実)を収集し、そこから浮かび上がる課題を設定。そしてそれに対して解決策を提示する、という構造にたどりついた。さらに、企画書に落とし込む際、ロジックに執着することをやめた。正しい理屈に上司が共感するとは限らないし、論理にこだわるほど、目新しい発想から遠ざかることがあるからだ。

「ファクトを並べて、思いついた課題や解決策を、説明を省いて提示してみることにしました。すると論理が飛躍しているから、上司には『どうしてこうなるの?』と聞かれるので、そこを説明していく。多少の穴があると、相手とのコミュニケーションが生まれるんです」

宮井さんはあえて指摘されるようなポイントをつくるというが、ツッコミどころが多いと、当初用意した解決策が変わらないだろうか。

「最初の案が通れば、それはそれで気持ちいい。でも社内の企画書では自分のやりたいことを通すより、上司の案も採用したほうがお互いにハッピーになるのでは。コミュニケーションを通して、相手の要求に応える企画書に修正できたら、最終的に『君は僕のことをよくわかっているね』と評価されますよ」

企画書は相手を説得するものではなく、コミュニケーションツール。その考えに至った宮井さんは、この3年間、コンペで負けていないと胸を張った。