学生時代は官僚志望。失敗して銀行へ就職するも、1年半で転職。そこも2年で辞め、起業。だが、次第に資金繰りが悪化。倒産寸前に。起死回生を――彼が選んだのは、因習が支配する水産流通業だった。

水産の素人がウケた4つの理由

【田原】松田さんは前職を辞めて、いよいよ八面六臂を創業します。いままで鮮魚の話はまったく出てこなかったけど、どういうきっかけで水産関係の流通をやることになったのですか。

【松田】前の会社にいるとき、水産流通系の人と意見交換する機会がありました。最初にお話ししたように、卸業者と飲食店のやりとりはいまだに電話とファクス中心で問題が多い。それはITで解決できると気づいたのですが、当時は飲食店の料理人さんがインターネットで注文できるハード環境が整っておらず、時期尚早ということで話が流れました。しかし、私が独立を考えた10年は環境に変化があって、事業として成立する目が出てきた。ちょうどいいと思って、この水産流通分野で起業しました。

【田原】環境が変わったって、どういうことですか。

【松田】最初に話が出たときはまだガラケーが主流でしたが、10年にiPadが登場して状況が変わりました。タブレットならネットも使いやすいし、画面が大きいから年配の料理人の方も簡単に操作できます。

【田原】でも、料理人の方はiPadを持ってないでしょう?

【松田】はい。だから私たちがiPadをたくさん仕入れて、飲食店の方に無料で貸すことにしました。

【田原】実際に魚の販売を始めたのはいつからですか。

【松田】11年4月です。まず飲食店さんに営業をかけて、最初の1週間で3店がお客さんになってくれました。お客さんの反応を聞きながらサービスを改良していき、年末には契約店が30店に。サービス開始から1年後には一気に100店までお客さんが増えました。

【田原】松田さんは水産の素人だったでしょう。それなのに、どうしてそんなにウケたんだろう。

【松田】料理人さんからすると、私たちから買うメリットは4つあります。安くなること、品質のいいものが手に入ること、品ぞろえがいいこと、そしてサービスがいいことです。