2015年12月10日(木)

なぜ一流店は、客に感想を聞かないか

茂木 健一郎:世界一の発想法

PRESIDENT 2015年9月14日号

著者
茂木 健一郎 もぎ・けんいちろう
脳科学者

茂木 健一郎1962年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学博士専攻博士課程修了。理学博士。第4回小林秀雄賞を受賞した『脳と仮想』(新潮社)のほか、著書多数。

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茂木 健一郎 写真=PIXTA
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先日、仕事の後で、とても素敵な料理屋さんに連れていっていただいた。

オープンキッチンでマスターがつくり、カウンターでいただく料理は、どれも美味しく、器や盛り付けにも美意識が貫かれていた。

ワインが注がれたグラスの照り輝く光の向こうに、借景の緑が見える。お客さんは常連さんが多く、みな、それぞれの時間を楽しんでいらした。

開店間もないというそのレストラン。人気が出るだろう、ミシュランの星もつくだろう、などと考えながら、ふとあることに思い至った。

マスターは、にこにこして料理を出しているだけで、味はどうだったかとか、美味しかったかとか、一切そのようなことを聞かない。そんな気づきがきっかけとなって、私は思わず考えこんでしまった。

客が満足しているかどうかは、表情や態度に表れるものだ。(写真=PIXTA)

一般に、一流のお店ほど、お客さんにあれこれとものを尋ねない。料理の味わいは主観的なものだから、どんなに丹念に準備しても、お客さんが最終的にはそれをどう味わったか不安になりそうなものだが、マスターは聞かない。

なぜか? いちいち感想を聞かなくても、お客さんのふるまいを客観的に見ていれば、喜んでいるかどうかはわかるからであろう。

料理を食べるテンポはどうか? 出した皿を、残したりはしていないか? 表情はどうか? 会話は弾んでいるか? 満足そうに帰ったか?

何よりも、一度来た客が、また戻ってくるか?

どの料理もお客さんが残さず食べ、リピーターが多く、口コミでお客さんがお客さんを呼んでくる。そのような店では、あえて感想を聞かなくても、「美味しい」と感じていることはわかる。「うまく回っている」のである。

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