初めての客に「おすすめ」しづらい
いつも笑顔でサービスをしてくれるあの飲食店の従業員が、心の中ではお客のことをどう思っているか、皆さんは想像したことがあるでしょうか。粗暴な態度やノーショウ(予約をしたのに連絡もなく店に現れないこと。俗に言う「ブッチ」)など、お店のスタッフはさぞかし困るだろうと誰が見てもわかるケースはたくさんあります。しかし、お客の側に悪気や自覚はないけれども、お店がちょっとイヤだなと思っていたり困惑したりしていることも、実は多々あるのです。実際にヒアリングをして集めたケースをいくつかご紹介したいと思います。
「初めてお店に来て、いきなり『おすすめ』を聞かれると、ちょっと困りますね」。恵比寿のワインバルの店長はこう言います。「もちろん、自信をもって勧めたい料理やワインはあります。ただ、そのお客さんの好みも、今日はどんな気分なのかもわからないと、勧めにくいのが正直なところです。例えば、『がっつり肉を食べたいんだけど、何がいいかな?』とか『重ためだけれど渋みは少ない感じの赤ワインで、お手頃なのある?』とか聞かれたら、すごく答えやすいんですけどね」
おすすめを聞くというのは、イチ押しがあるならばそれを頼みたいという、お客からすれば非常にシンプルなリクエストをしているだけでしょう。しかし店にとっては、絞り込み条件や状況説明なしでおすすめを聞かれることは、行き先もわからないのに道を聞かれているようなもので、ちょっと戸惑ってしまうのです。裏を返せば、少しでも好みや希望を伝えることで、より満足できる提案やサービスを受けられる可能性が高まると言えます。
次にご紹介するのはちょっとしたテーブルマナーについてですが、銀座のとある和食店の店主はお客のこんなところを見ているようです。
「私は、箸置きにちゃんと箸を置かない人とか、おしぼりをぐちゃぐちゃに置く人に対しては、そこまで本気でもてなす必要はないと判断します。そういうことがルーズな人に対してきめ細かいおもてなしをしても、おそらく伝わりませんから。逆に、マナーや身だしなみがしっかりしている方に対しては、迎える側として背筋を伸ばしてしっかり応えたいと思っています」
私たちが店を選び、店を評価するように、お店もお客を「格付け」しているのは間違いありません。これは金払いの良さとは関係なく、「おもてなしをしたくなる客かどうか」という点においてです。高級なレストランになればなるほど、満足できるサービスを受けたいのであれば、まずは自分自身が丁寧な態度で臨んだほうが良いと言えるでしょう。