このごろ仕事の関係でM&A関連の話をよく聞くようになった。そのこともあり、自然と私の目は本書に惹かれた。著者の三宅卓氏は日本最大の規模と実績を誇る日本M&Aセンターを率いる社長で、2000社のM&A成約に陣頭指揮を執った経験者でもある。

しかし、百戦錬磨のはずの著者が心酔しているのは、リバーサイドというアメリカの同業者だ。M&A先進国とされるアメリカでも、リバーサイドは業績が好調な中堅企業の買収に特化した、世界でトップクラスのファンドである。

本書の中で三宅氏は、リバーサイドは単なる投資家ではなく、むしろ企業の「運営」という分野に優れた実務家集団だ、と褒めている。彼らは買収した企業の価値を高めるために、リストラに頼らず、企業や経営者の潜在能力を引き出すマネジメントの方法論を蓄積している。すなわち、PMI(合併後の経営統合)の具体的な手法である。実は無味乾燥な内容かもしれないと覚悟して読み始めたのだが、実例の面白さに惹かれて、一気に読み終えてしまった。

たとえばリバーサイドの日本での関連会社が、新潟県最大の駐車場管理会社を買収したときのこと。その会社には会議室がなく、ミーティングというものがほとんど行われていなかった。会社の運営はすべて、創業者の秀逸な先見性に支えられていたのである。

そこでカリスマ経営から組織運営に切り替えるため、営業部、経理総務部、技術部のトップらからなる「変革推進チーム」を立ち上げたが、ミーティングを開いてみてリバーサイドの幹部は絶句した。「皆さんが新潟でナンバーワンなら、ナンバーツーはどこか」との質問に誰も答えられなかったからだ。新潟市内の駐車場の状況を調べさせ、「当社の駐車場ではどこが一番儲かっているか」と質問を向けても回答が出てこない。さらに調べさせると、愕然とする事実が判明した。同社運営の駐車場の3分の1が赤字になっていたというのである。

思わず6年前に中国・安徽省蕪湖市を訪問したときのことを思い出した。蕪湖は長江のほとりにあり、夏は蒸し暑い。街角にあるマンションを見ると、エアコンの室外機が取り付けられていない家庭がかなりある。同市に進出している日系エアコンメーカーの日本人幹部に、「蕪湖のエアコンの普及率は?」「最も売れているブランドは?」と尋ねたが、「知らない」という。

いくら地元では販売していないといっても、その幹部は中国に3年以上も滞在している。市場に無関心という点では、その幹部も新潟の駐車場会社の幹部も同じである。

企業のM&Aは買収契約書にサインしたことで終了するのではなく、そこからスタートしたと理解すべきだ。数々の事例から、そのことがよくわかる1冊である。