人工知能に関する書籍や記事などをずいぶんと目にするようになった。中には、近未来SFに近いような話もあるし、極端に偏った議論もあり、実際に起こっていることが、なかなかわかりにくい。

そんな中で、この分野の最先端研究者の手による本書は、とても客観的かつわかりやすく書かれており、お勧めしたい1冊だ。

往々にして、研究当事者の議論は、難解であったり、あるいは思い入れの強い主張が展開されがちだ。それに対し本書は、今までの研究の歴史を踏まえて、今現在、どこまでのことがわかっていて、何ができるようになったのか、何が難しく何がまだできないのかが、極めて冷静な視点でわかりやすく書かれている。これはとても貴重なことだ。

本書の主張のポイントは、「ディープラーニング」と呼ばれるブレークスルーがこの分野で起き、それが人工知能を今までとは違う次元に引き上げる可能性を持っているということだ。

そこに至るまでの説明は、必ずしも簡単とは言えないが、推理小説を読むような感覚とともに、人間が学習するとはどういうことなのかを改めて考えさせられて、とても興味深い。また、否定的な意見があることも包み隠さず説明しており、そのスタンスが逆に主張に説得力を与えている。

驚くべきことに、このディープラーニングが登場したのは、わずか3年前であり、それ以降、急速に研究が進展している。変化のスピードは恐ろしく速いのだ。

多くの読者にとっての関心は、人工知能が実際に世の中をどう変えるのかという点かもしれない。これについては、最終章で説明されている。

評者としては、読後、ディープラーニングが進展しなくても、経済や雇用には今後大きな影響が出てくるのではと強く感じた。

人間にできた仕事を完全にコンピュータで代替できるかは、研究者にとっては重要な課題だ。しかし、それが実現しなくても、たとえば、100人必要だった仕事が、1人で済むようになれば、現実経済、特に雇用に与えるインパクトは、とてつもない。そして、たとえ人工知能の進化が著者の見通しを下回ったとしても、そのくらいのことは可能になると思われるからだ。

ディープラーニングについては、ここに大きなビジネスチャンスがあるのではと思わされた。だからこそ、多くの資金が世界的に集まっているのだろう。どのようなビジネスチャンスがありうるのかは、本書を手にとってじっくり読んでいただきたい。

また、人工知能は知能のOSであり、独占されると大きな問題が生じうるという指摘は、今後を考えるうえで、とても重要な警告であるように思う。