「そのままの自分でいていいのだ」という感覚

それでは、共同体に所属できているという感覚はどうやって得られるのだろうか。

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4つの感覚を充たせば、「ここにいて、役に立つことができる」(GettyImages=写真)

アドラーを日本に紹介した精神科医の野田俊作は、自己受容、信頼、所属、貢献の感覚に分けることを提案している。ありのままの自分でいられる「自己受容」、周りの人に任せることができる「信頼」、自分の居場所がある「所属」、周りの人の役に立つことができる「貢献」。これらの4つの感覚が充足されることによって、「自分はここにいて、役に立つことができる」という所属の課題を果たすことができるのである。

これらの4つの感覚について、それぞれを見ていくことにしよう。

職場の新人はまず、「自分はここでやっていけるだろうか」という感覚からスタートする。新しい職場、新しい仲間の中に自分が飛び込んでいくわけだから、誰でも不安な気持ちになるだろう。不安という感情は、「未来のことについて準備せよ」というシグナルである。不安を減らそうとして、私たちはあれこれと考え、自分自身を準備状態にしようとする。

自分が現状の自分を受け入れることが可能なことを「自己受容」と呼ぶ。「自分を飾ったり、背伸びしたり、偽ったりすることなく、そのままの自分でいていいのだ」という感覚である。準備がうまくいって、新しい職場で自分がうまくできているなという感じを持てれば、自己受容の感覚ができてくる。

周りの人たちの役割は、新人がこの場所で自己受容できるようにすることである。失敗をしたとしても、それを叱ったり、責めたりすることなく、新しいスキルを獲得させる機会だと考えて、新人に教えることである。そうした指導を積み重ねて、新人に「この調子でいけば自分は成長できる」という見通しを獲得してもらう。これが自己受容につながる。

自己受容の感覚ができてくると、徐々に周りの人たちへの信頼を持てるようになってくる。信頼とは、「周りの人たちに安心して任せることができる」という感覚、つまり、周りの人たちに頼ることができるという感覚である。信頼がなければ、周りの人たちから支えてもらえない中で、自分一人が頑張らなければいけないと考え、無理をしてしまうことになる。そのような状況では心身が不調になることも不思議ではない。

新人に信頼の感覚を持ってもらうためには、周りの人たちが常にお互いを支え合っているのだ、ということを表明することだ。そして、その中に新人も含まれているのだということを説明する。職場の中で、一人だけで仕事をすることはない。常にチームで仕事に取り組んでいるのだから、一人ではこなしきれないことがあれば、仲間に頼ることができる。そうした仕事のやり方を新人に覚えてもらうことによって、信頼の感覚ができていくだろう。